第2話.白パンツ
異世界転生をして早七年。パーティーに入れてもらってからも早七年。リーダーになってからは早六年か。
俺はパーティーを追放された。
単なるおふざけと信じたいところだが、ドアを何十分叩いても応答がなかったので、追放と考えるしかない。
俺はSランクパーティーのリーダーであり、Sランク勇者である。
そんなやつがパーティーから追放される。正直、意味がわからない。
通常なら雑魚キャラと思わしきやつが追放されるからな。
まあ、アニメで見た話なので、現実では違うのかもしれないが。
腕を掴まれた時点で抵抗すれば、追放されることはなかった、とも思う。が、あいつらとは七年間も一緒に人生を歩んできた、友達や親友以上の関係だ。
つまり、恋人……ではないな。
とりあえず、そんなやつらに抵抗なんぞしたくなかった。というよりかは、単なるおふざけかと思っていた。
男三人が密になってるんだぞ。
おふざけ以外考えられないよ。
いや、男三人密で何も起きないはずがなく、という展開もあり得る……あり得ないよ!
とりあえず、俺は人生が行き詰まった状態になった。
これからどうしようか。
現在の手持ちは、履いている白パンツのみ。
それ以外は何もない。
剣や冒険証、その他諸々はギルドに置いたままだ。
……詰んでいる。完全に詰んでいる。
これじゃ飢え死にしてしまう。
そもそも、なぜあいつらは俺を追放したんだ。
あのパーティーは俺がいないと成り立たないパーティーだ。
つまり、俺以外は超絶弱い……とは考えないでおこう。
俺が強すぎて他のメンバーが目に当てられない、ということにしよう。
Sランクパーティーといわれている理由も、俺がSランク勇者であるからだ。
Sランク勇者はパーティーなんぞ入らず、単独で生きていく。
正直、弱いやつらがいても邪魔にしかならないからな。
Sランク同士でパーティーを組むという手もある。が、この世界は地球以上に広大な世界なので、Sランク勇者と出会うことはほぼ不可能。
なので、Sランク勇者は単独で生きていくしかない。
Sランク勇者がいないのなら、Aランク勇者と組めばいいじゃないかと思うかもしれない。しかし、Aランク勇者とSランク勇者は天と地の差があるんだ。
ソシャゲで例えれば、Aランク勇者はイベントが行われたときに課金する人、Sランク勇者は常時課金をする人だ。
Aランク勇者ですらかなりの差があるのに、俺はパーティーに入った。
なぜかって? 一人は寂しいからだよ。
元々はSランク勇者ではなかったのも、パーティーに入った理由だがな。
転生した当初はスライムも撃破できない雑魚だった。
しかし、モンスターとの戦闘を進めるうちにSランク勇者になった。
アニメで例えれば、成り上がり系最強主人公だな。
パーティーに入って夢を叶えたい、と思ったこともパーティーに入った理由だ。
俺の夢はアニメ主人公のようにヒロインとくっつき、イチャイチャでラブラブなことを行うことだったからな。
結局、この夢は叶わなかったが。
そんな理由があったため、パーティーに入り、離脱していなかったが、強制離脱させられた。
そして、現在の俺は手持ち白パンツのみの上裸人間だ。
完全に成り下がったな。
『最強勇者の成り下がり』
俺の人生をアニメにするなら、この題名が似合っている。
これからどうしようか。
白パンツのみでどこかで就職するのは確実に無理。
勇者としてやっていくのも、剣が無いため無理。
……詰んでいるな。
このまま飢え死にするしかなさそうだ。
いや、待て。
追放といえば、その後に確実に起こる展開がある。
それは、『ざまぁ』だ。
つまり、これから今まで以上に幸せな暮らしがやってくるはず。アニメではそういう展開だった。
まだ人生を投げ捨てる必要はない。
よし、何かしよう。
とりあえず、歩こう。
――――
屋台のような店が整列に並んでいる。
八百屋、防具屋、洋服屋、うどん屋。
俺が欲しているものが並んでいる。
今の俺にとっては
でも、こんな場所を歩いていても、何も得られない。
どうしようか……と思っていたら、うどん屋の端の方に、ひっくり返った湯切りザルが落ちていることに気がついた。
見えづらい場所に落ちているため、店主は気づいていないのだろう。
俺が拾ってあげるか。
湯切りザルが落ちている場所に行き、湯切りザルの持ち手を握った。
「これ落としてますよ」
別の湯切りざるで湯切りをしていた店主は、俺の方を向いた。
店主という覇気が出ているおじさんで、丸亀○麺でよく見る制服を着ていた。
この世界にもうどん屋制服があるんだな。
「ありがとう。って、これ使えないじゃん」
使えない? と思い湯切りザルをよく見てみると、大きな穴が空いていることに気づいた。
この大きさの穴だと、茹で汁だけでなく麺も落ちてしまう。
「それいらないな」
「なら処分をしたら
「お前さんが貰ったら?」
俺が貰う?
こんなものを貰ったって意味がないと思うが……
でも、現在の手持ちは白パンツのみ。そんな状態なら、役に立つ可能性がある。
貰った方がよいのかもしれない。
「ありがとうございます」
俺が湯切りを貰うと、店主は笑みを浮かべた。
捨てる手間がなくなって嬉しいと思ったのだろう。
「白パンツ姿で歩くやつなんて初めて見たよ」
「そうでしょうね……」
「実に面白い」
店主はガハハと貴族のように笑った。
わざとこの恰好にしているのなら、俺も一緒に笑えるが……
――――
早速、湯切りザルの使用方法を発見した。
まず、店と店の間にある、小さな隙間に座る。
その次に、湯切りザルを堂々と置く。
そして、
「どうか恵んでください!」
と、大声で叫ぶ。
大声で叫んだ瞬間、隣の店の店主が驚いて天井に頭をぶつけていた。
頭をぶつけた天井には穴が空いていた。
今はお金が無いので、見て見ぬふりをする。
申し訳ない。
今やっている行為は乞食だ。
乞食をするのは如何なものかと思うかもしれないが、仕方がない。
今の俺には金を稼ぐ方法がこれしかないから。
「この白パンツ姿を見てください。可哀想だと思いませんか!」
大きな声で言った。
俺を見た人は全員クスクスと笑った。
人が真剣に訴えているのに笑うなんてムカつく、と思ったが、第三者目線で考えてみると当然だと思った。
俺だって白パンツ一丁姿の人が叫んでいたら笑う。
そんな感じで相手にしてくれなかったが、ただ一人だけ相手にしてくれた。
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