第3話(3)
大きな爆音と激しい震動は、爆発の凄まじさを物語っていた。前方には、天頂に達する黒煙が噴き上がり、太い火柱が立ちのぼるさまも建物越しに窺える。コロニーの天井部に取りつけられたスプリンクラーが作動する中、小爆発による震動はなおもつづいていた。
まえに進むほど、避難してくる人々と様子を見に行こうとする野次馬とで道路はごった返し、混乱の様相を呈していった。爆心地から飛んできたガラス片や建物の残骸などが路面に飛び散り、あるいは爆風の影響を受けた周辺建物もまた、窓ガラスや外壁が損壊するなどの被害が出ていた。
どんな機体であれ、コロニー内部での飛行は原則禁止である。だが、シリルはやむを得ず、イーグルワンをニュートラルなエアカーの仕様に切り替え、10メートルほどの高度を維持して人々の頭上を一気に飛び越えた。
前方で黒煙を噴き上げる現場と、ナビゲーション・システムが示す目的地とが一致する。研究所の権威と規模そのものを示すかのような巨大な建物は、敷地内の周囲の棟を巻きこんで、ほぼまるごと1棟がきれいに吹き飛んでいた。
今回の依頼が、これでパーになったことは間違いない。だが、その依頼と眼前の爆破事故とが無関係であるとは、到底思えなかった。
いったい、なにが起こったというのか。
自分がなにに巻きこまれようとしていたのかを確認するため、シリルは速度と高度を維持しながら爆心地の周囲を旋回して様子を窺った。優れた動体視力を誇るその両眼が、不意にあるものをとらえた。
「あっ、おい、貴様! なにをしているっ!?」
「戻れっ! 入るんじゃないっ!!」
現場に急行してきた消防や救急隊、警察関係者が集まる中、シリルは飛び交う怒号や制止の声を無視してイーグルワンを降下させ、事故現場の敷地内に着陸させた。
機体のドアを開けると、熱風や煙が一気に吹きこんでくる。建物のあった一角で、ふたたび小爆発が起こって足もとに震動が伝わってきた。
防護マスクを装着したシリルは、事故現場に降り立った。白煙と黒煙が入り乱れ、粉塵と炎が舞い上がる。そんな状況下で、先程、ほんの一瞬だけ視界がとらえたものの位置を見定めて目を凝らした。その先に、黒い影がわずかにチラリと浮かび上がった。
反射的に地を蹴った男は、目標物との間合いを一気につめる。腕を伸ばして掴んだものを、迷わず自分のほうへと引き寄せた。
「大丈夫か?」
熱風と煙、粉塵から守るように抱きこんだその躰は驚くほど
――女?
思いがけない展開に内心で驚きつつ声をかけたシリルは、さらにその相手を視認して言葉を失った。男の黒瞳が、驚愕に見開かれた。
これほどの大事故に巻きこまれていながら、ほぼ無傷で現場内を
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