第21話 お風呂の時間が早くなっただけ

 冷たい。

 そして臭い。臭い。臭い――。

 なお、怒りは意外とない。とにかく臭い。

 怒りが湧かなかったのはなんとなく犯人は目星が付いているからかもしれない。あと、飛鳥さんには申し訳ないが。

 今見た目で被害を受けたのは飛鳥玲奈。

 俺。薬水柚希ではない。と思えるからかもしれない。

 とまあでもこのままということにはもちろんできないので、今はとにかくシャワー浴びたい。

 いや、お湯を張って温まりたい。

 せっかく俺の好みにしようとしているのに、汚水臭いとか嫌だからな。

 というか、俺鈍いというか多分両サイドの個室に人が居たのに全く気が付かなかったという。

 ――あれ?トイレで変な事つぶやいてないよな?もしかして――素が出てた?いやでもまあ大丈夫だろう。

 記憶喪失が何とかしてくれると信じている。


 何故平穏に過ごそうとすると何か起こるのか。

 それもいい感じに1日が終わるかと思ったところで。それもまだ週初めだぞ?明らかに来るなオーラか。

 でもまあもちろん何か起こりそうな雰囲気。嵐の前の静けさはあったか。今思うとやはり俺が鈍いだけ説――飛鳥さん。とりあえずごめん。

 にしても、せっかく少しずつ俺好みにしようとしているのに、汚水ぶっかけてくるとか。

 やってくれる。

 学校でずぶ濡れをみんなに見せたいとかそんな事俺は一切思ってなかったぞ。

 俺は1人で楽しみたい――って、余計な事考える余裕がある俺という。

 臭すぎて頭おかしくなったか?いや、普通に考えてなる。

 吐いてもおかしくない。俺頑張っているよ。


「じゃあとりあえず駅言っ――うわっなんだ」

「何?って、なんだあれ――」

「なんでずぶ濡れ?」

「っかくさっ!」


 ずぶ濡れだが特に隠すことなく教室のある階に戻ってくると。どうやらすでに掃除の時間。そのあとのホームルームすら終わっていたらしく。何人もの生徒が廊下に出てきているタイミングだった。

 そのため全身ずぶ濡れの俺はまあそれはそれは目立った。

 これはしばらくネタになりそうだな。

 飛鳥さん。もう1回謝っとくわ。ごめん。変に目立つてる。

 そして臭いはやはりしているらしい。

 というか今も俺自身まだ感じている。頭からかぶったからか。しっかり染み付いている。

 まあ制服に染みついているのが一番臭いの原因だろう。

 俺が廊下をそのまま歩くと人が避けていき。近くを通った際『クサっ』『うえっ』などの反応をする生徒もいたが無視。

 そのまま俺は教室に戻る。


 ずぶ濡れの俺がそのまま自分の教室へと入ると。教室内に残っていた生徒が一斉に俺を見た。

 一瞬で俺が感じた視線の種類は8割驚き。1割興味なし。1割笑い。

「――っ!」

 そして0.1くらいの割合。というか1人と言っていいか。

 俺に掃除場所を教えてくれた女子生徒が視線の端で驚きと共に絶望ではないが。何故かショック?でも受けたような1人だけ独特な反応をしているように見えた。

 こちらから直視することはなかったが。教室内を歩くとき。ちらりと女子生徒ではなく。その方を見ると自然と女子生徒の様子が分かり。完全に俺を見て怯え――の反応ではなく。自分の口元を手で押さえ。驚き。やはり絶望?みたいな表情をしていた気がするが。今の俺はとにかくシャワー浴びたい。だったのでそれ以上は考えずスルー。

 というかあまりに上手くいきすぎてあのような反応になったと思った方が良いのだろうか。

 まあ改めて考えると親切に教えてくれたと思い。疑うことなく一直線にトイレへと向かい。真面目に掃除して。真面目に予定通り引っかかっているんだからな。

 俺間抜けだわー。

 ――でも、本当に作戦が成功したという反応をするのは窓際で集まってこちらを見ずに大笑いしているあの先週絡んできた男女のグループだと思うが――。


 自分のロッカーへと到着し帰り支度を手短にしている間(タブレット端末を操作)だけでもいろいろ小言が聞こえてくる教室内だったが。その後の俺は誰の方も見ず。相手にせず。ロッカーを開けるとカバンを出してすぐにUターンした。

 廊下へと出ると。いつの間にか教室に居たはずのあの男3人女子2人が廊下の窓際へと移動しており。こちらは見ていなかったが。明らかに自分たちにとっては楽しそうな会話を居ていた。

 もちろん今のところは早くシャワーを浴びたいので耳はシャットアウトしている。

 そもそもこんな姿で長く居ると風邪をひく。

 とっとと帰るのが正解だろう。

 幸いにももう放課後。

 授業中とかだと復帰初日から早退とか――などといろいろあったが。

 今なら帰っても問題なし。

 ちなみに今も誰かが声かけてくるとかはないので、俺はすたすたと歩き寮へと足早に向かう。

 一応は気を付けていたが少し暗い廊下に水を垂らしてきたかもしれないが。あっても少しだろうから許してもらいたい。

 ちなみに今日は1日学園のスリッパを借りていたが。見事に濡らしている。

 というかこれは薬水柚希の癖が出てしまっており。トイレ掃除の際。というかトイレに入った際。トイレ用のスリッパが隅っこにあった気がするが。完全にスルーしてスリッパを履きっぱなしだったのだが――今となってはまあ汚してしまったのでどうしようかと下駄箱へと向かっている際に考えていたのだが。

 とりあえず今の状態で返すのもだったので、持ち帰って拭いて返すことにした。

 確か来客用はいくつもあったので1足くらい消えても――だろう。

 明日なんか言われたら今日のことを話せばいいだろう。

 多くの人がずぶ濡れは証言――してくれるかね。

 まあいいや。今は早くシャワーを浴びたい――だったが。

「――掃除増やしてくるな」 

 下駄箱に到着すると。今度はもともと汚れていたので今日は履いていなかった上履きと朝履いてきた靴が入れてあったのだが。

 いつの間にか下駄箱がまたゴミ入れ。ゴミ箱化していた。

 どうやら昼のゴミでも入れてくれたらしい。あと飲み物と。

「――まあどうぜずぶ濡れだし足元も何か変わっても問題なしか」

 下駄箱前で一言つぶやいてから。汚れた靴へと履き替えて学園を後にする。

 ちなみに幸いなのか。寮生は部活動をしている人が多いのか。学園を出てから寮へと帰るまでの間に学生と会うことはなかった。

 時間を見てみるとホームルームが終わって本当にすぐくらいだったので(というかホームルームに俺。飛鳥さんがいなくても問題なく終わったのか。まあ一生徒くらいいなくてもいいか。あの担任も何とも――って感じだからな。面倒ごとは避けるタイプかもしれない)俺は帰宅部の中では先陣を切ったような感じだったのかもしれない。

 ということで、足早に部屋へと帰って来た俺は部屋の鍵を開け室内へ。

 そして特に誰かに見られることもないので、玄関のところで重たく臭い制服を脱いでいく。

 しっかりと下着にまで染み込んでいる居るため玄関ですべて脱ぎ去る。

 しかし、脱いでもなんか臭い。

 ということですぐに洗面所へ。

 ちなみにこの制服洗濯可能らしいのでシャワーを浴びる前に洗濯機へと投げこむ。

 制服と下着は洗濯機任せた。俺は身体を洗う。

 とか1人で何を思っているんだ。と思われるかもしれないが。俺はそんな変なテンションで(確実に臭いにやられた)洗濯機のボタンを押すとすぐに浴室へと入りシャワーを出す。

「――ぶわっ。冷たっ!?」

 お決まりのように水をかぶってから、ちゃんとお湯にしてしばらく頭から浴び続けた。

 やはり身体が冷えていたらしくシャワーは気持ちよかった。

 そして頭から身体すべてを入念に洗う間に小さいが浴槽があるのでお湯を溜めた。小さいからか溜まるの早いので、入念に洗っていたらそこそこいい感じ。半身浴が出来そうなくらいは溜まっていたので綺麗になったあと少し湯船へと浸かる。

「あー、いいじゃん」

 飛鳥さんが小柄な方だからか。小さな浴槽でもあまり問題なかった。

 そして半身浴に近かったが。ゆっくり温まると身体の芯からポカポカ。少し冷えていた身体もしばらく浸かっているとむしろ熱くなってきた。

「あー、ホント絶壁だな」

 臭いもなくなったからか。飛鳥さんの身体チェックをしていたのは――秘密にしてくれ。

 気持ちよく温まっていると洗面所から洗濯機の終わる音が聞こえて来た。

「あー、とりあえず干さないとな。乾くか?まあ乾かなかったら――明日は体操服でもいいか」

 湯船から上がりつつそんなことをつぶやく俺。

 ちなみに汚水をぶっかけられようが。別に明日行きたくない。とかは思ってなかった。むしろ普通に行ったらどんな反応するだろうか。とか思っていたりする。

 風呂から出ると、身体を拭きまた裸で室内をウロウロ――決して裸族を目指しているわけではない。着替えの準備が出来なかったら着替えを探しに行っただけだ。

 適当に部屋着を着るとその後髪を乾かし。洗濯機の中を確認すると――以外にも綺麗になっていた。

 臭い臭いも取れていた。

 カッターシャツなどはシミになるかと思ったがこちらも意外と綺麗に落ちていた。

「――まあよしか。とりあえず――って、これもしかして浴室乾燥あるんじゃね?」

 そして洗濯をどのように干そうかと考えていると、ふと浴室のところの電気のスイッチ近くにいろいろボタンがあることに今更気が付き――浴室内よく見ると天井近くに棒がある。

「――意外と気が付かないことで」

 薬水柚希の身長なら視線に入って気が付いていただろう。

 しかし――飛鳥さんの身体では特に気になる高さではなかったらしい。

 ということで、この寮。というかこの学園の設備が改めて良いと知った俺は洗濯を干すと一度ベッドに寝転んだ。

 汚水事件が無くても初めて事ばかりで疲れたからだ。

「――あー、靴」

 だが。寝転んですぐまだやるべきことが残っており。後回しにすると明日に響きそうだったので、渋々起き上がり。靴の掃除を始めたのだった。

「初日からいろいろやらせてくるな―マジで」

 もちろん俺のつぶやきは誰にも届かない。

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