第4話 ゾウさん行方不明

 ほんのりとよい香りが残る中。箸を置き手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

 お腹。満たされました。

 長身の女医さんと白衣の天使様が俺の病室を出るとすぐに白衣の天使様2が食事を運んできた。 

 そういえば腹ペコだった俺は1人になるとすぐに食事に手を付け。無言でパクパクと完食した。

 病室に1人で話し合いてもいなかったという理由もあるだろうが。とにかくお腹が空いていたので黙々と食べた。

 今思うと検査中。移動中も空腹で気分が悪くなっていたのではないかと思う。多分そうだ。いつ以来の食事かは定かではないが。少なくとも4日は寝ていたらしいので、とにかく久しぶりの食事を完了した。

 本当は食事より先に確認すべきことがあった気もする(今更ながら食事前に気が付いたが明らかに手が小さくなっていたり。腕が細かったりなどなど)。

 でも、空腹には勝てなかった。

 ベッドの備え付けのテーブルに食事が置かれたのだから、わざわざベッドから降りる必要がない。それに普通に身体は動くなのでそこまで心配はしていなかった俺。

 それもあってとある重大なことにまだ気が付いていない。

 とにもかくも食事は大切だ。

 そしてお腹が満たされると空腹時に確認すべきこと。と思っていたことを忘れる便利な俺の脳でもあった。


 ちなみに夕食はご飯に味噌汁。鶏肉を焼いたものと野菜。そしてバナナが半分だった。

 病院食と聞くと、栄養管理とかで美味しくないのでは?量が少ないのでは?などというイメージが個人的にはあったが。食べてみると味もしっかりあり。美味しい食事だった。あとほんのりだが温かかったのも嬉しかった。すごく久しぶりに温かいものを食べた気がした。

 そりゃ4日は寝ていたんだから。そう感じるだろう。

 そもそも今思うと、よく普通に食べたな。とも思うが。久しぶりの食事だと胃が受け付けないとかいうこともあったかもしれないが。俺は特に何もなかった。

 本当に4日も寝ていたのか疑うレベルだ。

 ちなみに、食事が運ばれてきた際には量が少ないとも感じていたので、その時点で充分いつも通りだったか。

 なお、少ないと思っていた割には食べてみるとちょうど良い量だった。

 もしかすると、いや、もしかしなくとも一応眠りすぎて胃が小さくなったのかもしれない。

 今までの俺は特に大食いではないが。それでも平均並みに食べる方だったが。今日は少ない量で満足できたのだった。

 とにかくいろいろ混乱する中。食事で少しほっこりとできた。


 食事を終えた後はナースステーション近くに返却するワゴンがあるらしく。動ける患者さんは持ってきてほしいと、先ほど食事が配られたときに白衣の天使様2より聞いていた。

 すでに俺は点滴ももう終わり。動くことも許可されているのでトレーに乗っている空の食器を返却に向かうことにした。

「――おっと」

 その際に久しぶり?なのかはわからないが。少し立ち上がるときに違和感があったが(どうやらベッドの高さを誤認していたらしい。ベッドがそこそこ高かったようだ)。立ってしまえば特にふらつきなどもなく。自分の足でちゃんと立つことができた。そして特に足も動かない。動けないことはなかった。

 動けることを再確認してからトレーを持つ。

 陶器の食器などは使われておらずすべてプラスチックのためとっても軽い。

「あ、コップと箸は自分のだったよな」

 トレーを持った際。そういえば今の俺は、病院の入院セットを使っていることを思い出した。

 これも白衣の天使様2から聞いたのだが。どうやら入院時に必要なものをすべて借りられるサービスがあるらしく。俺の場合は着替えやタオル。その他日常的に使うものはすべて借りているとのことだった。

 コップと箸もそのセットの中の物で、あとフォークとスプーンもセットで入れ物に入っている。

 俺はコップと箸は後で洗うとして、先にトレーをナースステーションの方へと運ぶことにした。


 その際入り口付近にある洗面所に長い髪の人影がチラッと映っていたが。この時の俺は何故か気が付かなかった。気付くのはもう少し後。

 今は普段しない事をしていてそちらに意識が集中していたみたいだ。


 病室から出ると。まだ面会時間なのかナースステーションまで数メートルなのだがその間に面会らしき数人の人とすれ違った。

 今の俺もだが。どうやら入院患者の人は基本同じパジャマ。これも借りれるセットのものだがそれを着ている人が多いため。私服だとよく目立っていた。

 そして目立っていたと言えば。

「――背高いな」

 その際に俺の身長は平均より気持ち高い方だったはずだが。たまたますれ違った家族がみんな高く。一番低かったおばあちゃんらしき人と何故か身長がほぼ同じだったため。俺は驚き一瞬足を止めて、すれ違った人の方を見ていた。

「高身長の家庭?なのか」

 特に高身長の人に憧れとかがあるわけではないが。ここ最近は人を見上げるというのはほとんどなかったので、特に背の高かった男性の背中を見つつ俺は1人つぶやいたあと、再びナースステーションへと歩き出した。


 ナースステーションの前には大きなワゴンが3つ置いてあった。

 自分の身長よりかは低いがそれでも自分の肩あたりに一番高い棚があるワゴンだ。

 少ない人数で一気に食事を運ぶための工夫なのだろう。でもあの高さだと。身長が低い白衣の天使様。または白衣の……ボーイ。

 あれ?話がそれるが。天使とは。男性も女性もなかったのだったか?今のところまだ女性看護師さんしか見ていなかったから、みんな白衣の天使様と言っていたが。男性看護師の場合は……でも天使に男女はなかったような……とりあえずもし男性看護師さんが居た場合は白衣の――ボーイ。天使でいいかな。

 話を戻す。

 とにかく、大きなワゴンに俺は驚いたのだ。 

 あのワゴン。俺でもギリギリだ。

 そんな事を思いつつ。俺が空のトレーを持ってきた時はまだ数か所に返却されたトレーがあるだけだったので、後の人が入れるが楽なように、一番高いところにトレーを入れた。

 まさかの少し背伸びをする羽目になったが。

 この食器回収のワゴン大きすぎるだろ。

 一応トレーを無事に片付けた俺は病室へと向かう。

 その際先ほどは高身長の人たちを見ていたため。ちゃんと見なかった他の部屋もドアが開いているところはちょっと観察させてもらった。

 他の部屋は4人部屋だとドアが開いており。俺と同じく個室だとドアが閉まっていた。

 ちなみに4人部屋で、俺が通った部屋はすべて埋まっている様子だった。だから俺は個室だったのかもしれない。

 周辺の部屋をちらっと見た後。俺は自分の病室へと入る。

 そしてドアを閉めた。

 改めて考えてみると、個室を使っているので部屋に戻りドアを閉めると落ち着ける空間だった。

 全く廊下からの機械音や会話が聞こえないわけではないが。ドアを閉めるとかなり静かになる。

 俺はふらりと窓の方へと進む(何故か入り口近くにある洗面所の鏡に映る異変に気が付かない俺。その2)。

 外はもう暗くなっている。

 窓から外を見ると駐車場側らしく。ぽつぽつと車が止まっているのが見える。

 ちなみに階は低いらしく地面が結構近い。多分3階くらいだろう。景色は特にだ。駐車場と駐車場の先にある建物がいくつか見えるだけ(この時の俺はガラスに映る自分の姿にも気が付かなかった。実は自分の姿に気が付きつつ。現実を受け入れていないだけのように見えているかもしれないが。この時の俺、本当にまだ気が付いていなかった。普通に外を眺めていた)。


 窓の外を見た後俺はベッドへと戻る。

 その時ベッドのところにある机の上に、先ほど使ったコップと箸がそのままあることに気が付きコップと箸を手にして室内にある洗面所へと向かう。

 洗面所はすべて自動。石鹸も水。正確にはぬるま湯も全部手をかざせば出てくる。

 ささっと俺はコップと箸を洗うと備え付けのペーパータオルでコップと箸を拭いた。

「――うん?」

 そして、やっとやっとやっととあることに気が付く俺。

 ふと、正面の鏡に長い髪が見えた気がしたからだ(やっと)。

 特に幽霊怖いとかはないのだが。この部屋は個室で他に利用する人がいないため。俺ははっと顔をあげて鏡を見る。

「――――だ、誰だお前ぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 すごく今更だが。今の俺は記憶がおかしいらしい。

 そして飛鳥玲奈というと思っていた。そう勝手に思い込んでいた。

 しかし実際はも違った。俺ではなかったのだ。

 今までも気が付けるポイントはたくさんあったはずなのに、今更ながら気が付いた俺。何故気が付かなかったのかと、自分に驚きつつ。

 それはそれは本当に幽霊でも見たような声を一瞬出した。

 それと同時にカランカランと持っていたコップと箸が床へと落ちる。

 しかしそんなことに気が付かないくらい俺は鏡を凝視していた。

 何故なら鏡を見るとそこには全く知らないがいたからだ。

 不健康そうな細身の身体。頬も少しこけた感じで、ボサボサの長い黒髪が腰当たりまである。

 前髪も長そうだが奇跡的にずっと耳にかかっていたため。視界の問題はなかったらしい(もしかすると自然と髪をどかせていたのかもしれないが。今ではもうわからない)。

 ぱっと見は中高生くらいのまだ幼さの残る雰囲気の女。しかし不健康さがやはり目立っている。

 年齢より老けているように見られそうだ。そもそも正確な年齢はわから――いや、そういえば長身の女医さんと話している時に高校生と聞いた気がする。

 高校生と言われたら。まあ高校生くらいの見た目だろう。

 高校生とわかってもやはり不健康そうな感じが目立ってしまっている。


 なお、俺は幽霊は怖くない。

 でもいきなり知らない人間が立っていたら――ちょっと怖い。

「――うん?あれ?なんで俺の真似――って、これもしかして」

 一瞬はいきなりの事で気が動転したが。慌てふためく俺の行動がすべて鏡に映り。その動きが俺自身が行ったものと同じと気が付くと。俺の脳内には目が覚めてからの状況が蘇り。もしかしてこれ俺なのか?と、そう気が付くと頭の中が落ち着いてきた。

 普通ならもっと早くこの状況に気が付いているはずだった。

 しかし、俺は気が付かなかったから仕方がない。

 身体が変わるわけないとどこかで思い込んでいたのだろう。だから疑いもしていなかったのだ。

「――飛鳥ひちょうさん?どうしました?大丈夫ですか?開けますよ?」

 今更ながらいろいろ理解した俺。

 それと同時に廊下の方でパタパタと足音がし。少し乱暴にドアが叩かれる音のあとドアが開き。白衣の天使様3と思われる人と目があった。

 そしてどちらもが固まった。

 ちなみに先ほどの女医さんと一緒に動いてた白衣の天使様ではなく。食事を運んできてくれた白衣の天使様2でもないので白衣の天使様3である。

 こちらの白衣の天使様の方がまだ初々しい雰囲気があり。白衣の天使様3の方が俺より慌てているように見えた。

 どうやら俺が叫んだのが廊下まで響いたらしい。

 そして慌てて飛んで来てくれたのだろう。

 だが。このまま沈黙が続くのはすごく気まずい。

 自分が原因とわかっているからか。沈黙が続くほど無駄に恥ずかしい。

 それに自分の馬鹿さ――いうのか。何故女ということに気が付かなかったのか。気が付かず普通に検査を受けたり。長身の女医さんと話したりと、いろいろ思い出すとさらに恥ずかしくなり。このまま沈黙が続くのはさらなる自分の行動を思い出し。何しているんだと耐えられなくなりそうだったので無理矢理口を開いた。

「――――す、すみません。何でもないです。あははー」

 結果。苦笑いしかできなかった俺だが。白衣の天使様3も俺の様子を見て、何もないとわかると。安心したのか。微笑み「何かあったら気軽に言ってくださいね。あっ、箸とコップ落ちてますよ」と、言い部屋を出て行った。

 もしかすると俺の記憶が混乱しているということを知っているから、その一部だと思ったみたいだ。

 よかった。

 少し――いや、かなり恥ずかしかったが。俺は再度1人になると洗面所の前で深呼吸をして、再度鏡を見た。

 鏡に映るのは、やはり

 俺。 

 けれど俺が鏡の前で両手をあげると、知らない女も同じように両手をあげる。

 一歩下がれば鏡の中の知らない女も一歩下がる。

 つまりは今鏡に映っているのが俺。

 はっきり言って意味がわからない。

 もしかしてこれは夢の中なのかもしれない。と、今更そんなことを考えた。

 現実の俺は何か事故か。または勝手にぶっ倒れ――そういえば少し前にも思い出そうとしたが。俺は何をしていたのだろうか?今現在。病院で目覚めたということのの前の事がやはり思い出せない。濃い霧が脳内にあるみたいな感じがまた現れた。

 やはり夢なのだろうか?

 鏡の前に立っている俺は自分の少しこけた頬をつねる。

 もちろん痛い。

 痛いだけ。

 手を離すと少し頬が赤くなった。いや、この赤いのは先ほど大声を出したことに関しての赤さ。または今の今まで女になっていたことに気が付かなかったからか。

「――何がどうなってるんだが。夢じゃない?または俺が長期間眠っていて姿が変わる?そんな事あるわけないよな。だって、この見た目は女――マジで誰?俺なのか?」

 鏡の前で1人つぶやく俺。

 確実に見た目は俺ではない。けれど身体の中に居るのは薬水柚希だ。

 そういえばだが。目が覚めてから長身の女医さんはじめ白衣の天使様も検査を担当していた先生も俺のことを「」と呼んでいた。

 俺は戸惑いつつも検査の時は飛鳥さんで反応していた。

 そしてそのあと長身の女医さんと話しているとき。確か薬水柚希という名前は出した。出したが――そういえば。身体が女になっているなど俺は思っていなかったので性別の事は一切触れていなかった気がする。

 もしかすると長身の女医さんたちも薬水柚希という名前は聞いたが。それが男だと思っていなかったのではないだろうか?柚希という名前。なぜかちょくちょく女と思われることが昔あったのだ。

 もしかするとこれは俺の――説明不足。確認不足か?でも今さら男なんです。と言ってもどうなんだろうか?まだ混乱していると思われるだけな気もする。

 ちらりとベッドの頭上の方見ればと名前が書かれている。

 間違いなくこの身体は飛鳥玲奈という人の身体だろう。

「入れ替わりとかそんな事なのか?寝たら――戻る?」

 知らない誰かと入れ替わる。そんな話は何度か本で読んだことがある。

 しかし実際にそんなことがあるとは思っていなかったが。実際今俺は経験している。

「俺は誰――」

 誰の返答もないが鏡に向かってつぶやく俺。

「そういえば、先生らの前でって使うこともなかったか。返事するだけ。聞き取りも答えるだけだったから。だから普通に記憶をなくしているだけになったのか。人格言うのか。中が男とは思われてないのかもしれない。あれ?でも心は男。見た目は女とか。心は女。見た目は男って、普通にあるんだよな。もしかして俺もそういうのだった説?実は記憶がないだけで最近自分もそれに気が付いた可能性がある?それで何か無理して倒れたとかもあるんじゃないか?つまりなんだ。男だったけど。心が女で見た目を女にした――うん?でも、整形とかする余裕は俺にはなかっただろうし。マジで知らない顔だし。そもそも身長が小さくなるって無理だよな。やっぱり――夢?あー、わからん」

 つぶやけばつぶやくほどわからなくなる。

 頭がおかしくなりそうだ。

 額を抑えつつ下を向く。

 すると当たり前だが自分のお腹当たりから足先までが見える。

 そしてこれもやっとというべきだろう。

 今更違和感に気が付いてしまった。

 俺の膨らみがない。

 トイレにでも行っていればそこで気が付いただろうが。

 目が覚めてからの俺基本ベッドの上。トイレへはまだ行っていなかった。また着替えも自分ではしていない。

 なので、本当に今気が付いた。

 身体の作りが違うことに。

 

 全く知らない人の身体だが。身体を動かすのは全く問題がない。

 もし夢にしてもはっきりしすぎているので、とりあえずここは入れ替わりと俺は思うことにし。

 これだけ自由に動いて目覚めることもないので、俺はとある確認をしてみることにした。

 この確認をして警察を呼ばれるのなら「そこまで起きなかったこの女が悪いと文句を言おう」と決めてから。

 触る前から違和感があるが俺は股間をパジャマのズボンの上から手で触ってみる。

 ポンポンと触る。

「…………」

 やっぱり変だ。超変。めっちゃ変。

 まだ直接は見ていないのでどうなってるかは正確にはまだ言えない。

 けれど、自慢ではないが。俺の記憶が正しければ。そこそこ立派なゾウさんが俺の股間には居た。

 十数年は生きた身体だ。成長もしていたはず。ほぼ毎朝膨らんでいたゾウさん。普段は少し存在感アピールをズボンの中でしていたはずのそのゾウさんが――いない。

 明らかになめらか。

 その事実を受け入れれないまま。俺はもう1つ確認をした。

 パジャマの上着のボタンをはずす。そして上着を広げると。こちらは特に変化なし。

 絶壁。

 なのだが。どうも俺が覚えている俺の身体。上半身ではない。

 もともと絶壁なのだが。何か違う。身体の作り。雰囲気が痩せた身体でもやわらかく見える。そして本当に気持ちだけだがよく見ると2つの膨らみが――。

「って、ブラしてないのかよ」

 ……ツッコミはそれか?と、誰かがこの場に居れば言われただろうが。今は1人。特に誰かに指摘されることなく。俺は知らない女の胸を鏡越しと頭上から見る。  

 絶壁は絶壁であるが。男の身体ではない。

「――ちょっと失礼」

 ここまで来たら確認しておこう。

 ゾウさんの安否確認は超重要事項だ。

 俺は絶壁越しにそのままパジャマのズボンを下ろす。

 病室で何をしているのだと言われるようなことをしているが。今は重要なことをしているので目を瞑ってもらいたい。

 ズボンを下ろすと面積の少ない無地の下着が現れる。

 普段トランクス普段トランクスを最近は愛用していた俺からすると心もとない布面積。そしてまたまた今更ながら少しの締め付けを感じた。

 今まではいろいろありすぎて気が付かなかったが。見たことにより脳が認識したようだ。

 まあ、下着の違いはさておき。

 ここまで来れば特に躊躇なく俺は下着も下ろした。

 下着を下ろすと鏡は上半身しか映っていないので直接見るしかないが。特に覗きこむことなく。

 ――ゾウさんの不在が確定した。

 びっくりするくらいなめらかになっていた。

 どうやら俺と一緒に一生歩むことに疲れ家出した可能性。

 何故だ。生まれて今まで女性と交わることがなく。この先も俺と一緒ではないだろうと愛想をつかされたのだろうか。

 自分の股間が様変わりしたことに驚きはもちろんあった。あったのだが。

「……?」

 半脱ぎ状態の何とも言えない状況で、俺は誰の身体かわからない裸を鏡と直視で見ていると。ふと、俺の頭の中がすーっとさらに冷静になっていった。


 唐突だが男が女に急になったらどんな反応をするだろうか。

 パニックになるかもしれない。

 思春期真っ最中なら身体に興味津々になるかもしれない。

 真面目に知らない身体をもっと観察するかもしれない。

 その身体を自由に使う輩もいるかもしれない。

 俺ももしかしたら女の身体になったということでテンションが上がり。いろいろする。という未来もあっただろう。一応思春期の高校生だし。

 しかし、今の俺はかなり冷静に知らない女の裸を見ていた。特に触ったりもせずただ見ていた。

 本来なら女の裸を見たら目を背けていてもおかしくないのだが。背ける前にとあることに気が付いてしまった。

 はっきり言って不健康そうな身体というのは、脱ぐ前からパっと見でわかっていた。頬がこけていたので全身も痩せているのは少し予想していた。現に服を脱げば痩せた身体だった。

 だから女の裸を見ても興味が湧かなかった。ということではもちろんない。痩せていようが異性の裸を見ればそりゃ反応する。反応するのだが――。

 俺が気になったのは、よくよく見ないと気にならない程度のものと言えば気にならない程度のものだった。

 俺が見つけたのは、いくつかの。傷跡だ。

 もちろん記憶がぶっ飛んでいるので、病院に運ばれる原因となった事での痕かもしれない。

 特に長身の女医さんも触れていなかったので、気にしなくて良いものなのかもしれない。でも俺には何故かそうは見えなかった。

 人目に付きにくい場所。そして目立つ大きさではない。けれどそのが何かを伝えようとしていた。

「……」

 まさか。というのが今の気持ち。でもそんな気がしてしまう自分がいた。

 俺は、ゾウさん行方不明という重大事件が発生しているにもかかわらず。ゾウさんのことは頭の隅に置き。

 また、女になったから、身体を触ってみるとかそういうことはなく。下ろした下着とズボンを上げ。上着のボタンも閉めた。

 そして食べることを優先したため。ちゃんと確認していなかった自分の荷物などを確認してみることにした。

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