第3話 マイ ネーム イズ
これが俺の名前だ。
生まれて一度として名前を変えたことはない。
そもそもそう簡単に変えられるものでもないと思うが――。
でも先ほど病室から出て行った。正確にはドアを開けただけの白衣の天使様は『ひちょうさん』と、俺に向かって言った。
誰だそれ?
薬水柚希をどういじっても、『ひちょう』という言い方にはならないだろう。
でも白衣の天使様は明らかに俺を見て言った。というか。俺しかこの病室にはいないので、確実に俺に向かって言った。
もしかすると、白衣の天使様が俺の見た目に驚き――間違えた?混乱した?ということもあるかもしれないが。その可能性は低いか。いや、0.01くらいのとあるゴムくらいの薄い可能性はあるかもしれない。
自慢ではないが俺、薬水柚希は超絶イケメン――ということは全くない。ごめんなさい。適当なこと言いました。あと余計な例えしました。ごめんなさい。
でもおかしなこと言うくらい現状俺は戸惑っているのだ。それはわかってほしい。
話を戻すが。俺はイケメンではなく。もっちゃり男子と自分で思っている。
ちなみにもっちゃりとはダサい。という意味と個人的には理解している。
昔からおしゃれとか興味がなく。常に髪もボサボサ。服装もあるものをずっと着るなど超無頓着。周りと比べると自分は明らかにダサい雰囲気だった。
――周りからもそうみられていただろう。
ダサいと自分でわかっているので、ストレートに俺はダサい。と言っていればいいのだが。自分の中でダサい。と、言うと心にグサッと来るものがあり。自分の心を守るために、ちょっとかわいらしく?やわらかそうな?言葉を自分で探した結果。もっちゃりにたどり着いた。
言葉を探すくらいなら。自分磨きをすればいいと言われるかもしれないが。一度染み付いたことはなかなか変えられないのだよ。
そもそも――――うん?そもそも――なんだったか。
ふと、自分の事を思い出そうとすると。頭の中にスーッと濃い霧がかかったようになった。
少し背中に嫌な汗が流れる。
これはどうやら俺。頭でも打って病院に来たのかも入れない。
自分の記憶を完全に忘れているわけではないが。直近の記憶がおかしい気がした。
こういう時は無理に考えることはしない方が良いだろう。
そういえば俺は何の話をして自分の記憶の話になった?
あ、そうか。今は『ひちょう』とは何ぞや?だったな。
すると、そのタイミングでまたトントンと、ドアをノックする音がしたので、俺は「はい」と、今度はすぐに違和感のある声で返事をした。
ドアが開き先ほどの白衣の天使様がちらりと見えた後、『先生こちらです』と、白衣の天使様が廊下の方に声をかける。
するとそこそこ長身の影が現れた。
髪の毛はボサボサで、俺の病室に入りつつ白衣を羽織った。
まるで寝起き?ともとれるような姿だ。
または長時間労働中で疲弊している姿か。とにかくお疲れ?の様子の――長身の女医さんがやって来た。
俺の病室へと来たので、この長身の女医さんが俺の担当医だろうか。
俺が考えている間に長身の女医さんは俺の近くまで来て、部屋の隅に折り畳み立てられていたパイプ椅子を手に取り。ガチャガチャと椅子を少し乱暴に開くとパイプ椅子にどっかりと座った。
「気分どう?」
長身の女医さんはパイプ椅子に座るなり俺の方を見つつ質問してきた。
「えっ、えっと、問題ないかとです。はい」
ちょっと長身の女医さんに圧があるため。俺の返事する声が小さくなる。俺完全に委縮中だ。
「なんでここに居るかわかる?」
「それは――全くわからないです。はい」
圧が強い。俺の声がさらに小さくなるが。頑張って返事をする。
多分返事をしなかったら。
または聞こえないような小さな声で返事をすると。それはそれでさらなる圧により俺が完全に潰されそうだったからだ。
「えーっと、
長身の女医さんは話ながら白衣の天使様の方に首だけ向けて聞く。
「4日前の夕方です」
白衣の天使様は長身の女医さんに聞かれることがわかっていたかのように、笑顔のままサッと答えた。もしかすると、いつもこのような雰囲気なのかもしれない。
「だそうだ」
2人の話を聞きつつ。約4日も寝ていたのか?と、驚いていると。長身の女医さんの顔がまた俺を向く。
「4日前の夕方。駅前で倒れていたらしく。うちに運ばれてきた。覚えてる?」
長身の女医さんが再度俺に質問してきたが。俺は何故ここで入院しているのかということも気になったが。それより今は別に聞きたいことがあった。
「あ、あの……」
恐る恐る手をあげつつ発言を求めてみる。
「なんだね」
発言の許可を得ると俺は長身の女医さんに質問をした。
「先ほどからひちょうさんと言われていますが。それは誰の事でしょうか?」
「うん?」「えっ?」
俺が発言をすると長身の女医さんと白衣の天使様両方が俺の凝視した。
「ちょちょ、検査結果見して。ほら」
「あ、はい」
本当は『俺は薬水柚希と言います』とまで言おうとしたが。俺が話している途中で長身の女医さんと白衣の天使様がほぼ同時に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったかと思うと。すぐ少し慌ただしくなったため。言うことができなかった。
長身の女医さんはすぐに白衣の天使様からタブレット端末を受け取り画面を確認しつつ。『うーん……』と、唸っている。
ちなみに俺はというと口を挟むことができない雰囲気になってしまったので、「あれがカルテ?なのか?患者のデータは全部タブレット端末で見れるのか。病院内って電子機器使えないイメージが俺はまだあるんだけど。いろいろ変わっているんだな」と、長身の女医さんの持っているタブレット端末をただ見ていた。
なお俺からでは裏面しか見えないため。長身の女医さんが何を見ているのかは不明だ。
「うーん。一応検査しておこうか。連絡お願い。暇してるだろうから開いてるところからどんどん入れといて」
「はい」
そのあとのことを言うと俺は急遽いくつかの検査をすることになった。
起きた時に使用していたベッドに寝た状態で運ばれ院内を移動。
移動時。慣れない姿勢での移動だからか。少し気分が悪くなりかけたが。それは耐えた。
あと空腹にも耐えつつ言われた検査をすべて受けた。
窓の外が暗闇になった頃。俺は目覚めた病室へと再度運ばれ1人となったところで休憩していると。少しして長身の女医さんが再度白衣の天使様と共に俺の部屋へとやって来た。
長身の女医さんは先ほどと同じくパイプ椅子にどっかりと座り。白衣の天使様は女医さんの後ろに立った。
「お疲れ様。えっと――特には――だね。頭もぶつけてないみたいだし。うーん、一時的なものだろうな」
長身の女医さんはパイプ椅子に座ると白衣の天使様からタブレット端末を受け取り。画面を見つつ話す。
どうやら検査結果に問題はなかったらしい。
そのことに関してはちょっとホッとした。もし何かありまた検査とかになるのは勘弁だったからだ。
その後は長身の女医さんによる問診が始まった。
なお俺は圧に負けないように努力はしたが。ボソボソと答えるのが精一杯だった。そのため会話のキャッチボールといより。長身の女医さんの質問にイエスかノーで答えるような時間となった。
長身の女医さんと話をすると。本来俺は飛鳥玲奈「ひちょう れな」という名前らしい。
もちろん薬水柚希という名前で生活してきたはずの俺からすれば混乱の2文字である。
けれどこの病院に運ばれた時。俺の持っていた身分証は飛鳥玲奈の物であり。すでに学校側にも確認を取り飛鳥玲奈と身元確認は済んでいた。
また病室に置かれていた俺の荷物もすべてが飛鳥玲奈の所持品だった。
長身の女医さんと話していると。俺は飛鳥玲奈という人生を歩んでいた。本当に俺は飛鳥玲奈で、入院する原因になった倒れた際に記憶が混乱し。一時的に薬水柚希という記憶を作ってしまった?とも、現状などから思ってしまいそうになってしまうこともあったが。
けれど俺は薬水柚希である。飛鳥玲奈という人物ではない。
しばらく長身の女医さんと話した後。診察結果はというと、自分の事に関して記憶障害。混乱があるが。日常生活には支障はないだろうとのことだった。
長身の女医さん曰く『一時的に記憶が飛んでいる。または日常生活の中でのストレスなどが原因で自分を守ろうとして記憶が飛んだ。別の人間を作り出したのかもしれない』ということだった。時間と共に思い出していくだろうと言っていた。
あと、『規則正し生活しろよ。もっと食え』とも言われたが。
――女医さんも規則正しい生活してますか?と、一瞬聞きたくなったが。もちろんそんなことは聞けなかった。
聞いたら『生意気だな。そこに正座しろ!』とか言われそうな雰囲気があったからだ。
自分に関する記憶の混乱はあるが。特にけがなどもないため俺は明日には退院。後日外来を受診ということになった。
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