第2話

 ここで悲劇について、ほんのすこしだけ俺のパートナーの話をしよう。


 俺のパートナーはなんの変哲もない女の子だった。彼女の名前は月野つきのさん、月野御世つきのみよさんだ。俺は呼び捨てで御世と呼ぶ。俺と同い年で生きていれば17歳の彼女は、昨年さくねん、運悪く天使病にかかってしまった。


 結論から言うと、御世は天使病の末期に至るまえに過激派に殺されてしまった。


 どうしてこんなことになったのか……原因は明白だった。


 俺と御世のそばに過激派とつながる反社会的な人間がいて、天使病患者の存在を過激派に伝える密告者がいたからだ。


 その密告者が赤の他人ではなく、俺の家族だった知らされたときのバカらしさたるや。


 世間体ばかりを気にする父親と母親が協力して、俺のそばから天使病にかかった御世を……いわゆる“バケモノ”を排除してくれたらしい。


 ひどすぎる話だが、俺の父親と母親は善意で正しいことをしたとおおいに信じていて、あまつさえ、失意にしずんだ俺に、こんなことを言ってくれた。


「よかったな! なに、バケモノのことは気にするな。かわいそうだがしかたがない」


「あなたにふさわしい女性は、かならず他にも見つかるからね」


 殺してやろうかと思った。


 両親が俺のことを想ってくれているのは気が狂うほどによくわかるが、そんな子煩悩こぼんのうは関係なく、このけがらわしい差別主義者どもを地獄に落としてやりたくてしかたがなかった。


 だから決めた。復讐をしようと。どんな手をつかってでも、こいつらを御世と同じ目にあわせてやろうと。


 ひかえめな俺のささやかな復讐……それは俺自身が天使病の患者になることだった。

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