八月朔日夜桜の混迷
ぜろ
第1話 八月朔日夜桜の唸り
「わっかんねぇ~……」
科捜研のPCに向かいながら唸っているのはあたしこと
被害者は三十代男性、死因は椎骨骨折による動脈の傷からの出血死とでも言おうか、まあつまり首を絞められて殺されたというのが有望視だ。だが手の跡もロープの跡もない死体だったことが、あたしを唸らせた。マフラーや帯なんかの幅の広いものを使った可能性はあるが、それにしては傷が華奢だ。
うーうー唸っているとリリィこと
「ミス・オーガストにも分からないことがあるんだねえ」
「姉と被るから止めろって言ってるでしょ。あたしだって天才じゃないんだから分からないこともあるよ」
「ご謙遜を。医師資格免許をストレートで取って以来法医学教室に籍を置き続けている才媛が」
アーサーもとい
「分かんないって? 夜桜ちゃん」
「凶器よ。椎骨をピンポイントで最小限に折るものが分からない」
季節は冬、容疑者たちはみんな一緒に被害者を訪ねた。貸した金を返してもらうためだ。みんなマフラーをしていたし、職業もバラバラ。ピアノ講師、空手家、前衛画家。共通点はみんな被害者にある程度の金を貸していたこと。
どうしたもんかとPCを覗き込んでいると、アーサーもこちらを覗き込んでくる。葉巻の臭いが不快だ。ふむ、と頷いて、アーサーはあたしを覗き込む。
「ちょっと時間くれるかい? ミス・オーガスト」
だから止めろっつってんだろうが。何度も言わすな。
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