第二話 政略結婚でしたので

 彼の婚約者に任命されたのは一年前、十七歳の時だった。

 薬師の家系で生まれ育った私は、幼少期から当たり前のように薬の勉強をしてきた。

 その腕を認められ、貴族の御曹司であるライアンの持病を抑える薬の調合を任されることになったのだが。

 それだけでは終わらなかった。


 親同士は互いに利益を得るために手を組んだのだ。

 私の家には薬の技術があり、ライアン家には権力がある。両家が縁を結ぶことで、更なる利益を生み出せると踏んだのだろう。

 なんとも醜い政略結婚。

 おかげで薬師として独立する夢はおろか、薬の勉強をすることさえはばかられてしまい、気がついたらライアンのためだけに薬を調合するという日々になっていたのだ。


 ──けれど、それももうおしまい。


 彼の持病を抑えていたのは他でもない、私の薬によるものだった。

 ある日、彼が突然発作を起こしたことがあった。

 その時に彼の命を救ったのが、私が調合した薬だったのである。

 それからというもの毎日欠かさず薬の調合をして彼に服用させていた。だからあれ以来、大きな発作を起こすことなく穏やかに過ごしていたのだ。


 そしてその持病ゆえに、ライアンは激しい運動を避けていた。

 命に関わることになりかねないからこそ「結婚まで貞操を守る」と言っていた彼だったのに。

 自分の命よりも、性欲が勝ってしまうとは。

 あまりのことに呆れてしまい言葉が出なかった。

 

 そもそも、カリンと過ごしてこれたのも、すべては私のおかげだということを彼は理解しているのだろうか。

 私の薬がなければ、ライアンはとっくに倒れていてもおかしくはないのだ。


 ──まあいいや。腹上死でもなんでもすればいい。


 自室から必要な荷物だけ持ち出して、夜風を切るように颯爽と王宮の門へと歩き出す。

 まだ肌寒さの残る夜風も今は心地よいくらいだ。

 すべてを捨て、どこに行くかもわからない状態なのに、胸の内は開放感でいっぱいだった。

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