星輪のギメルス
アドム・ザナヴ
プロローグ
歴史というものは、常に勝者によって語られる。 だが、本当の物語はいつも、その喧騒の影で静かに産声を上げるものだ。
あの日の物語を、君に聞かせよう。
星霊暦四九一年四月七日。 竜の翼が空を覆った二千年の時代が、静かにその幕を下ろした日。 英雄アドナインの刃が魔王とまで呼ばれた皇帝サルディアヌス四世の命を奪い、ルーアッハ教カナン帝国の長きにわたる支配は終わりを告げた。
アルケテロス教圏の都市という都市は解放の歓喜に沸き、第二次魔法大戦の勝利を祝う歌声と祝宴の火が、夜通し空を焦がしたという。 その夜、まるで新しい時代の到来を祝福するかのように、巨大な星霊が一つ、夜空を横切った。後に「ルーシェル大星霊」と名付けられることになる、白金の尾を引いて悠々と流れるその姿に、ある者は神の祝福を、ある者は世界の終わりを、そしてまたある者は、自らのささやかな願いを祈った。
しかし、その輝きは本当に、勝者のためだけのものだったのだろうか。
同じ時刻、戦火を逃れた者たちが身を寄せる中立国の港町エフェソス。 その片隅の薄暗い一室で、世界から忘れられたかのように、一つの命が産声を上げていた。 父王を失い、祖国を失い、全てを失った女王イマの腕の中で、カナン帝国最後の王女が生まれたのである。
夜空を翔けた大星霊の祝福は、あるいは、滅びゆく世界の瓦礫の中から芽吹いたこの、たった一つの小さな希望の光──賢帝の血を受け継ぎ、世界を再び一つに導く宿命を背負うことになる、その赤子の誕生を告げるものだったのかもしれない。
これは、神々に翻弄され、時代に引き裂かれながらも、強く、気高く、そしてただひたすらに「感謝」を胸に生き抜いた者たちの、始まりの物語である。
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