2-15 大機構の捕食

ごう、ごう。

巨人の鼾のような異音と共に巨大粉砕機が駆動する。巨大な刃は夕陽と油によって赤黒く輝き、秘められた無慈悲さを直感させる。

事実、この粉砕機は瀬戸内の命により幾多の命を奪ってきた。そして今度は瀬戸内自身の命を奪う。


巨人のあぎとに瀬戸内は墜ちた。既に再生を始めた巨体に刃が食い込む。

耳を劈く悲鳴。グロ耐性があるサーシャはもちろん、ティアラもそれを瞬きもせずに見守る。やったことの責任ってやつを全うするために。


「ぎゃっ!?腸だ……腸が出ているですぅ!?!?」


固い皮膚は簡単に粉砕され、筋肉や骨を刃がしっかりとくわえ込む。通常、この時点で一番楽な決断は、自分から頭ごと突っ込んで即死狙い。そのことは犠牲者自身がよくわかっているはずだ。

このまま粉砕機に飲み込まれて死ぬだろうと、サーシャは思っていた。


しかし、瀬戸内は諦めない。救いなどないことは手を下してきた己が一番知っているにも関わらず、背中に力を込めて羽を再生する。


「ふぅぅぅぅぅぅ!!!私は!まだ!100人も美女を犯し殺していない!児童臓物も数えるほどしか捌いていない!こんなところで終われないですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


細胞が倍々算で増え、肥大化した翼の影が中庭を覆う。飛行機の羽のように巨大な翼。


「すごいな………流石『耐久力S』。」


生えてきたものは本来の2対の羽ではなく、ところどころ異常に骨が異常に発達したり、眼球などのあり得べからざる器官が発達していた。


異常な羽にも高い揚力が備わっているようで、羽ばたくたびに立っていられないほどの強風が巻き起こり、瀬戸内の上半身が手遅れな部分を千切って飛び立とうとする。


「や、やばいよ姉ちゃん。ここで仕留められなかったら……」

「大丈夫。幹細胞の分化がうまく進んでいない……相当追い込んでる。」


サーシャは『加速モード』と書かれたボタンを連打する。すると粉砕機の回転スピードが上がり、忽ち瀬戸内の上半身も回転に巻き込んでいく。

歯車に容赦はなく、瀬戸内の胸骨を砕き、頭が触れると右脳部までを食いちぎり、一度だけ弾き飛ばした。致命傷を超えた致命傷。それでもなお彼の怒りはなお猛る。


「クソがぁぁぁぁぁ!!トイレ掃除の魔物ウォーターフェアリーどもがいい気になってんじゃねぇですよぉぉぉぉぉ!?!?!?!?」


咆哮と共に更に再生のギアが上がった。

肉を食いちぎられたところから、甚大な量の肉塊が生え、それが臓器に、翼に、腕や頭を成形していく。


「これは……」ティアラが思わず息を呑んだ。

「さすが駝鳥の再生能力。死ぬこと以外かすり傷というが……めちゃくちゃだな。」


生えてきたのは、もう一人……否、の瀬戸内怪鳥。

皮膚が未形成だったり、顔が6つあったりするバケモノが傷口から生えてきていた。ソイツは古い自分を切り離して、また空へ舞い上がろうとしている。


「無敵か、あの野郎……。」サーシャは思わず怖気づいた。


再生能力、不死性という意味ではサーシャも相当なものだ。これまでにスライムとして体の一部を切り売りするように闘ってきた。しかしそれにしたって、人間で言えば皮下脂肪を取り除くような、比較的『どうでもいい』所を切り離してきたのだ。


自分を超える狂人に出会い、肝が冷えるものを覚える。思考が硬直する。


けれどティアラは違った。彼女だって怖かったに違いない。

けれど歯を食いしばると、操作室に放置されていたチェンソーを手に取った。


「これを食らわせてやる……お姉ちゃん、手伝って。」

「ティアラ!?いや、ここは………」


私がトドメを刺すから安全な場所から見ていて……というセリフをサーシャは中断しなければならなかった。

ティアラはいつかの守られるばかりの純粋な娘っ子ではなかった。全身に血を浴びて、しかし夕陽を背に勇ましくチェンソーを構える。ある種の畏怖すら感じさせる小さな戦士がそこに居た。


『『『オオオオオオオオオオオオ!!!!!!!殺す、殺してやるですぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!』』』


無数の頭が下から吠えている。迷っている時間はない。

サーシャは人間態を解除すると、自身を薄く広げ、蜘蛛の巣のように張り巡らせた。


「ティアラ!私に乗って!」

「うん!」


その上をアイススケートのようにティアラは駆ける。

思い返すのは、只管に無知で、何処が足りないのかもわからない考えなしの自分。そしてその犠牲となったキンタロウ。


(私は幸運だ。姉に恵まれ、共に恵まれ、足りないものを埋める機会を得た。)


瀬戸内を倒して決着をつける。

考え足らずな自分、それは一昼夜で改善できるようなものではない。だから、

蜘蛛の巣の中央、真下には瀬戸内。六つの頭、24の手足、その他器官として成立さえしない未熟な多数の組織。もはやその様相はかつてのサーシャのような軟体のバケモノとしか言い様がなかった。

チェンソーを持つ手に震えが止まらない。それでもスターターを引く。

いつかその震えを克服するために。


『巫山戯るな!!!!!!!やめろ、やめろおおおおお』

「うあああああああああああああああああああああ!」


精一杯に、叫んで。

瀬戸内の中央にチェンソーを突き立てた。


『ガアアァアァあああああああああああああ!?!?』


飛び散る血、臓物。それで再生能力が限界に達したのか、大きく痙攣すると瀬戸内は粉砕機に呑まれていく。

それ以上は抵抗することなく、驚くほどあっさりと。


魔物牧場のナンバー2・瀬戸内怪鳥は粉砕機に呑まれていった。

サーシャは終戦を悟り、ため息をつく。


遠くから、制圧を終えた進藤組の連中が今更駆けつけてきていた。



 





(こ、こんなところで死ぬものですかぁぁぁぁ)


……否、以前とは比べ物にならないほど小さな……脳の一欠片。粉砕の際に飛び散った一変になって瀬戸内は生きていた。スライムのようにトロい、這いずる動きで少しでも遠ざかろうとする。


しかしその前にティアラが現れた。


『………クククッ、キンタロのモツは美味かったですよぉ!』


ある種の潔さが現れたセリフだった。

自身の生存を諦め、少しでも相手の心に傷を残そうとしたのだ。


しかし最早、瀬戸内に怯えるティアラは居なかった。


無言で小さな肉片を粉砕機に放り込む。


今度こそ、きっと、瀬戸内は死んだ。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る