2-14 天駆ける駝鳥
魔物牧場をサド看守の居ぬ間に乗っ取り、進藤組の拠点として再度防衛線を構築するには時間がかかる。
瀬戸内に逃げられる訳にはいかない。
そこら辺に転がっている牧場スタッフから手頃な獲物をいただこう。
サブマシンガン、チェンソー………いや違う、空中の相手を仕留められる威力と射程を両立するもの……
黒光りする銃身の先に、鮮やかな緑のグレネードが装填されている…………グレネードランチャーを奪い取り、狙いを定め……駄目だ___足元にしがみついているティアラも巻き込まれてしまう。
舌打ちしてグレネードランチャーを体内に仕舞う。
「ティアラ!そいつ逃さないで!危なくなったらすぐ逃げて!」
(まかせて!でも長くは持たないかも……)頭の中からティアラの声が聞こえる。姉妹だからか。
ティアラの操る水は蛇のように瀬戸内の翼に絡みつき、飛行を妨害している。瀬戸内は錐揉みしながらも………なんとか少しずつ高度を上げていく。
「クソ、離すですぅ!サド看守様に報告して八つ裂きにさせてやるですぅ!」
瀬戸内が態勢を崩せば足元に捕まっているティアラにも相応のベクトルがかかるだろう。ましてや秋の暮れ、高さはビル20階近い。寒気が容赦なくティアラの柔肌を叩き、握りしめる指先は痛いくらいに冷たい。
そう長く捕まえていられない。
一度拘束が解ければ空高く飛んでゆき手出しできないだろう。当てられるとすれば、ティアラが拘束を解いた直後の一度きり。
(…………無理だ。ティアラ、お姉ちゃんが抱きとめるから降りてきて!瀬戸内は諦めて逃がすしか無い!降りてきて!降りてきてって!!)必死に念じる。
瀬戸内はまだパニック状態で態勢を整えるのに必死だ。しかし冷静になれば、その凶悪な鉤爪でティアラを手に掛けようとするだろう。
とにかく妹の差し迫った危機を回避することで頭がいっぱいだった。
(お姉ちゃん……何弱気になってるの?)
(へっ)
(中庭に、瀬戸内も仕留められる秘密兵器がある……らしい。
念話越しに伝わるティアラの声からは冷たく硬い決意が伝わってくる。一緒の部屋で暮らしていた頃の幼く庇護されるばかりの彼女ではないのだと再確認し……サーシャも心のスターターをつける。
(わかった、中庭ね。)
わかった、と言ってもおおよその検討しかつかない。
体に残った熱を利用して重要パーツを残して体を液状化、蜘蛛の足のような触手を整形し、入り組んだ建築物の中をフルスピードで駆動する。
建築物の中は例えるならアウシュヴィッツ、死の匂いで満ちている。虱潰しに扉を破壊していくと、漏れてくるのは消毒液では消え切らない死体の腐臭、汚物の刺激臭、今でも残響している悲鳴。
終わらせなければ、と強く思った。
100と8の扉を開けた頃、外に通じると思われる分厚い鉄扉が見えた。いくつもの錆びついた鍵や鎖がついている。
一度勢いを殺せば、もう破れない気がした。
体を円錐状に整形、『硬化』で鉄のように硬くなる。重要機関は底部に移動。円錐の頂点から髪を流し、空気抵抗を殺す。
8本の触手を一斉に前に伸ばし、巻き付け………一気に収縮!
目のくらむような衝撃、轟音。
ビルに解体用の鉄球をぶつけたような破砕音が響き、分厚い鉄扉が破られた。
「うっ………おえ……うっ……」
硬化を解除すると、ボロボロと体の一部が飛び散った。
底部に避難させていた内臓が直に殴られたように痛い。
表面はやや脆く、その下のそうは硬く、中心は液状のまま。そういう対ショック構造でなければいくつか破裂していたかもしれない。
でも休んでる余裕なんてない。
歯を食いしばるように力を込めて目眩を振り切り、前を見据える。
「……マザファカ………《えっぐ》……」
中庭に据えられていたのは巨大な粉砕機だった。
前世から見覚えがある。YouTubeにあるオモチャとかを粉砕してるやつ。ただし、スケールが違う。全体としては運動場が丸々入るサイズ感。刃は巨人の包丁のように巨大で分厚いものから、その隙間をぜんまいほどの小さな刃が埋めている。そのさらに隙間からは異様な匂いが立ち込めていて、まるで巨人のすえた口腔のようだ。
これなら闘技場で闘ったマンモスでも粉砕してしまえるだろう。
私は起動するべく配線を辿る。
「クッソ!何を企んでいるですぅ!?離すですぅ!」
サーシャが粉砕機を見つけた間に、上空では瀬戸内とサーシャが激突していた。瀬戸内は激しく身を捩り、時に嘴やカキヅメでティアラの臓腑を抉るか突き落とそうと試みる。
ロープのように絡みつく水は常に2本以上維持され、すぐに修復されるので切って離すことはできない。ときおりティアラの柔肌から肉が削られるが、身を捩ったり顔に水を叩きつけたりして、骨や血管を捉えられず中々有効打にはならない。
それでいて、中庭の方角に体重を傾けることで誘導していた。
ティアラは痛みに耐性がない。1挙動のたびに全てを忘れて泣きじゃくりたくなるような痛みに襲われる。それでも瀬戸内を戒める手を離さない。この痛みはトモダチが味わわされたものだから。
(なんで当たらないですぅ!?普段の私なら………!)
瀬戸内は戦闘においては達人の域に達している。弱者を甚振ることにおいては、なおさら。しかし勝負を付けられずに要る理由は、両者の瞳を見れば明らかだった。
逃げることしか考えずへっぴり腰の瀬戸内。
対して、漆黒の意思を瞳に宿すティアラ。
(決着を付けなければ、前へ進めない!一生後悔する、そんな気がする……!)
後者が勝つのは当然だった。
再び地上では、サーシャが破砕機の制御室に辿り着いていた。制御盤には中央に真っ赤なボタンが据えられていて、それを強く押し込む。
地震のように地面が震え、サーシャの眼下で、そして瀬戸内とティアラの真下で歯車が回り始めた。
「ティアラ!!!!!こっちだ!!!!」
合図と共にティアラは水を瀬戸内の翼に巻き付けると、大きく飛んだ。大きく触手を広げて待ち構えるサーシャの方向へ。
そして入れ替わるように、サーシャはグレネードの引き金に手を添える。全身で風を感じ、偏差を調整する。瀬戸内は上昇しようとするが、間に合わない。
「や、やめるですぅ………?私は世界に5種しか確認されない飛行能力持ちですよぉ……?こんなところで死んでいい命じゃないんですよぉ………?」
アボガド大の弾頭が、猛然と煙を上げて迫る。瀬戸内の羽が空中を叩き、大きく上昇するコンマ1秒前
弾頭か瀬戸内の厚い胸に食い込み、ひび割れ。
「ヒャウイゴーーーーッ!!!!!」
「ゴーーーッ………」
グレネードの爆風。
地上を薙ぎ、ガラスにヒビが入る。
爆心で翼を焼き尽くされた瀬戸内が落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます