第4話 その頃、妹は。

妹、お姉ちゃん。

そういう概念は妖精には存在しない。自然発生する生き物で、基本的に天涯孤独のまま短い一生を終える。ティアラはとある霊草の朝露から、サーシャは動物の死骸にたまった水から生まれた。


妹、お姉ちゃん。

その不思議な言葉をティアラは何度も何度も微睡みの中で反芻していた。そうすると、心の中から暖かいものが溢れてくる気がするのだ。


☆ティアラ視点☆


ティアラが目を覚ますと、知らない天井が見えた。

昨日より広く清潔な部屋にいたが、フェアリーの人数が明らかに減っていた。いち、にい、さん、よん、ご………指が足りない。詳しい数は分からないがたぶん半分になっている。

どうやら、水の操作が上手い子だけが残っているようだ。


……!?

サーシャ……お姉ちゃんがいない!


一人一人寝ている子をひっくり返して顔を確認する。妖精はみんな可憐な顔立ちをしているが……真珠のような瞳を宿したサーシャとは似ても似つかない。


他のフェアリーたちも目が覚めて事態に気がついたようで、アワアワとそこら辺を飛び回り始めた。


そうこうしているうちに、肌の焼けたスタッフさんと『おかあさん』が入ってきた。直ぐに飛び寄って、サーシャが、他の子たちが居ないと訴える。

後ろ手にドアの鍵が締めると、スタッフさんはニヤリと笑った。


「あの子たちは病気だったんだよ。お医者さんに行っているから、すぐ会えるよ。」

「すぐ!?」

「ああ、すぐすぐ。」


よかった、胸を撫で下ろす。そっか、お姉ちゃんビョーキだったんだ。早く直してくれるなら……。


「ふーっよかった………ありがとう!お礼!」


空気中の水分を集めて、スタッフさんにぶっかけた。すると、みるみるうちに顔に赤みがかかり、歯をむき出し、射殺さんばかりに睨見つけられる。


「な、なにしやがんだこの虫が………!」

「え、顔が汚れてたから洗ってあげようと思って……。」

「あ、ああ、なるほどね。チッ………。気分ワリィ!アクアマリン!施錠して来いよ!」


ドスドスと、今までに見たことが無い顔でスタッフさんはドアに向かって歩み寄る。


「ちょっとマスター!そんな乱暴な態度じゃ……」

「いいんだよ!どうせ忘れるんだからよ!」


ガチャ!!!!と、乱暴にドアが閉められた。


「はぁ………はいはい私の子どもたち、『おかあさん』の中で寛ぎましょうね………。」


『おかあさん』が手を広げると、他のフェアリーたちは続々とその中へ飛び込んでいく。みんな、何の不安もない、安らいだ表情だ。


「あれ、そこのこども。おかあさんの所へ来ないでいいの?」

「うん。いい。」


ティアラは代わりに部屋の隅っこに飛んでいった。淋しくはなかった。だって、胸の中に他の暖かさがあったから。


(お姉ちゃん……はやく会いたいな)






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