不遇水魔物の禁忌術式
@mazoku3chome
第1話 まもののらくえん
name サーシャ
spices アクアフェアリー ランクE
筋力 F
敏捷 F
耐久 F
魔力 F
とくせい 水神の加護 E
これを見て、『とにかく弱い』ということが伝わったら何よりだ。
自己紹介をしよう。私はサーシャ。元々地球のトンキンに暮らす日本人だったがひょんなことから転生、今はこの『楽園』でアクアフェアリーをやっている。
転生した当初は大いに慌てたものだ。魔物というものは赤ちゃん期とかなく成体で生まれてくるらしく、いきなりすっぽんぽんで湖の畔に立っていた。
水面に映る美少女こと私の姿を見てワーとかキャーとか言っていたら、偶然通りかかった『楽園』のスタッフさんに保護されたというわけだ。
今にして思えば幸運だったな。こんな貧弱なステータスで野に放たれたら死ぬしかなかった。
最低限の状況説明を済ませたところで、現実に視点を戻そう。
「サーシャちゃーん、すーりすーりしよ!」
華奢な肢体と綺麗な青髪、そしてなにより背に生えた翅が特徴的だ。私と同時期に発生した妖精、ティアラちゃん。
「うん!」
name ティアラ ランクE
spices アクアフェアリー
筋力 F
敏捷 F
耐久 F
魔力 F
とくせい 水神の加護 A
私たちは互いの裸体を密着させ、摩擦で暖を取り合った。私的な欲望だけでこんなことをしている訳ではない。私たちは死ぬほど貧弱な生物で、10度以下の環境だと凍え死ぬ。だからこうやって体温を上げるのは合理的な生存戦略なのだ。
互いに力いっぱい抱きしめ合っていると、他のアクアフェアリーたちも寄ってきて、あっというまにもみくちゃになる。
オッパイもアソコもでかい子もいる。
役得だぜグヘヘヘへへへ………
体温の中でうつらうつらとしていると、部屋の鍵をカチャリ、開けてスタッフさんと『おかあさん』がやってきた。
スタッフさんは設置された水槽に所定のご飯を置いていく。ご飯といっても、真水に藻や泥などの不純物が加わったものだが。水のなかの不純物を分解して我々は栄養素にする。バクテリアみてぇな生態だな!
『水の加護:E』は少量の水なら操作できる権能だ。透明な手で掴むようにして、水を飲み込む。……悔しいことに、これが中々においしい。
スタッフさんに頼めばご飯はもちろん、遊び道具などの便宜も図ってくれて親切だ。最初警戒心を持っていたのが馬鹿らしい。
一度外に出してほしいとお願いしたが、あえなく断られた。私たちの成長段階だと貧弱すぎて、どれだけ注意しても事故死するらしい。悲しきかな…。
「おかあさーん。」
「はいはい、て、あなたもどうしたの?」
わたしたちの『おかあさん』は見麗しい女性が水の羽衣を纏った姿のモンスターだ。クイーンフェアリーという種族のようで、人間であるスタッフさんより2倍3倍大きい。ステータスも私たちとは比べ物にならない。
name アクアマリン
spices クイーンフェアリー ランクB
筋力 E
敏捷 C
耐久 C
魔力 A
とくせい 水神の加護 A エナジードレイン S+
他の子がそうしているように『おかあさん』の羽衣の中に飛び込む。これも本能だろうか、柔らかい体に触れていると非常に安らぐ事ができるのだ。それまで溜まっていた不安や怒りなどを綺麗に洗い流してくれる。
わたしたちの1日の癒しだ。彼女が居るからこの狭い部屋ですし詰めになって暮らしていける。
『おかあさん』は忙しい。わたしたちが触れ合える時間は少しだけで、直ぐに何処かにいってしまう。
羽衣の中から放り出されたかと思うと、おかあさんは早い足取りでドアへ歩み寄る。フェアリーみんなで追いかけるが、あんよの大きさがまるで違う。スタッフさんもそれに続く。そして一瞥もせずに鍵を閉めてしまった。
あー言ってしまった。扉は鉄製で、みんなでぶつかってもビク
ともしやしない。
次のおかあさんが来る日までだーーーいぶ暇だ。私たちは部屋の隅っこに戻ってうつらうつらとする。
わたしたちの部屋は、汚い。カビが生えて、空気が淀んでいる。何の娯楽もない。人口密度が半端なくて、息がなんとなく苦しい。
この状況に対して何らかの疑問があったはずだが、それも忘れてしまった。今はただ、同じ境遇のフェアリーたちと抱きしめあって時間が過ぎるのを待つだけ。
みんな死人のように眠るだけ。
「……サーシャちゃん?起きてる?」
「うん、起きてるよ。どうしたの?」
「さびしい。」
みんなすし詰め状態で寝ているので、何処にいても声や手が届く。
サーシャを胸元に抱き寄せた。年長の定め?ってやつ?アタマをなでなでしていると、次第に彼女の震えがおさまってきた。
「わたしね、夢があるの。」
夢?ほんほん、おねえちゃんが聞いてあげよう。
「空を飛んでみたい。」
「そんなの……いくらでも飛べるよ。大人になったら。」
「ただ飛ぶのは嫌なの。サーシャと、みんなと一緒がいい。」
「あらあら、嬉しいやつめ。」
ぎゅぅーっとティアラの頭を抱きしめた。いたたた、と悲鳴がして力を抜く。
「任せろ、お姉ちゃんに。妹の扱いは慣れてるんだ。」
そう言ってやると、ティアラは安心したのか「にゅっ」という声を出して眠りについた。
さて、私も寝るとしようか。
▲盤面転換
「アクアマリン。どうだった、ガキどもの様子は?」
スタッフは黒く焼けた肌が特徴的だった。その体には水では拭えない死臭が染み付き、マトモな人間なら近づきたくないと思えるだろう。
アクアマリンは豪奢な椅子に腰掛けている。
ふたりの生活空間はサーシャやティアラが居る部屋とは別世界に思える豪奢さだった。
「何人かみこみのある子がいる。あの子たちはもうちょっと育ててもよさそうねぇ。」
「おっ、いいねぇ。」
「でも、大半の子はゴミだね。さっさと喰っちまおう。」
「ククク、そうこなくちゃな。」
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