第10話 ご飯とウサギ


「ここのしゃぶしゃぶ凄い美味しいんだよ! ほらうちのも上げるから一緒に食べて!」


 うちのモンスターたちのようにちょこまかと動き回りながら私にマシンガントークを繰り返す桃野もものさん。

 そういえばいつもそうだったと思い出して懐かしくもある。


沙羅さらちゃんはそれで今何のお仕事してるの?」

「今は、新しくできた事務所のマネージャーして、る……よ?」

「あはっ、なにその喋り方! 前と同じ話しかたしてよ! 寂しいじゃん」


 そうだ、こういう子だった。

 私が警戒しながら話していることを察しているのか、桃野もものさんは私に対して話を振ることは極端に少なく、ずっと自分のことを話している。

 やれ、今のマネージャーは自分の話を聞こうとしないだとか。やれ、今のモデル業界は自分に遠慮する人ばかりで友達が出来ないだとか。やれ、前より収入が良くなった反面忙しくて休みを取ることが難しくなったとか。


 桃野もものさんがそう話している間に、私は召喚していたモンスターたちを使って桃野もものさんのことを調べていた。


 店に入る前に召喚していたウサギ型のモンスターのキューちゃん。

 大人に変身してもあまり大きくも強くもならないキューちゃんだけど、他の子たちと比べて特殊な能力を持っている。

 なんだか意味があるのか分からない子供の姿のスキルは置いておいて、大人になるとだいぶ強力なスキルに変化する。



レベル:10,867

 種族:月の兎

 名前:きゅー

 所持スキル:《月兎脚ラビットフット》《月影の舞ムーンウォーク》《月読の瞳ツクヨミのひとみ


 レベルはどうやら私と同じレベルになるみたいだ。

 持っているスキルはそれぞれの効果として


 《月兎脚ラビットフット

 ・疲れ知らずでとても強靭な跳躍力を持つ。

 ・瞬間的な蹴りの強さが超絶強化され攻撃、移動共に使用可能。


 《月影の舞ムーンウォーク

 ・行動する際に発する音、空気の動きなどの周りへの影響を全て隠すことが出来る。

 ・特定の既にこちらの存在を看破している相手に対しては、幻影を作り出して幻影に自分とは違う行動をとらせることが出来る。


 《月読の瞳ツクヨミのひとみ

 ・対象の行動の予測と刺客では確認できない存在を感じ取ることが出来る。

 ・相手の心理状況を読むことが可能で、こちらは長時間の観察が必要になる。


 私は今回|月読の瞳《ツクヨミのひとみ》のスキルを使うためにきゅーちゃんを召喚している。


「でねー、うちのマネ最近ネトゲにハマってるらしくておすすめされたんだけど一緒にやる?」

「いえ、私は今新しい事務所の仕事がかなり忙しくて」

「そっかーじゃあ私もやらないかな」


 「それでねー」と話を続ける桃野もものさんの姿をじっとウサギが見つめている。


 現在いるのは普通のレストラン。

 一応廊下以外は全部壁だけど、個室でも何でもないこの場所でウサギが問題なくこの場にいる理由は、《月読の瞳ツクヨミのめ》と《月影の舞ムーンウォーク》で、周りの人たちの視界から外れ続けることで見つからないようにしている。

 店員さんが見に来るたびに天井の横に伸びている柱から柱に飛び回っている。

 天井に視線を向ける人が居れば、地面に降りて人を壁に隠れている。


「きゅ!」

「あ、ごめん……あれ? 何か踏んだ気がしたんだけど……」


 はじめてに近い隠密ミッションにきゅーちゃんは混乱中なのか、見つかることはないけど時々人の体に当たることがあった。


 桃野もものさんの話を聞きながら後できゅーちゃんに御褒美を上げようと考えていると、ふいに桃野もものさんが話を止めた。

 どうかしたのかと様子を窺うと、桃野もものさんはその顔から笑顔をとっぱらい、泣きそうな顔をしていた。


沙羅さらちゃんごめんねー!」


 いきなりぽろぽろと涙を流して謝罪をしている桃野もものさんに驚いた。


「やっぱりうちのせいだよね、うちが、うちがあの時ちゃんとみんなに話してればあんなことになってなかったし!」


 ぐすぐす泣きながら話す桃野もものさんは、よく人目を引いてしまった。

 その状態になって、ようやくきゅーちゃんの《月読の瞳ツクヨミのひとみ》が発動した。


 それによると、今の桃野もものさんには罪悪感がほとんどで、他には仲良くしてほしいという思いと、私を心配する気持ちだった。


桃野もものさん!? あ、えっと私は全然気にしてないですから!」


 なにかとんでもない修羅場を見てしまったかのような周りの目に、思わず出てきた言葉は、桃野もものさんを更に追い詰めていた。


沙羅さらちゃんごめんねー! 謝るから! 謝るから見捨てないで!」


 ダメなスイッチを押してしまったなと思った瞬間。きゅーちゃんから知らされた感情の変化は、大半だった罪悪感が寂しさに変わったというものだった。


 もう謝罪の言葉を話だけで使い物にならなくなってしまった桃野もものさんを連れて、私は人目のない落ち着ける場所を探しに店を出た。



 この時点で私は桃野もものさんを疑うことをやめた。

 こんなに私から嫌われたくないと泣いている人が居ることを初めて知った。


沙羅さらちゃんごめんねー!」


 すっかり喉をやってしまったのか、かすれた声で繰り返す桃野もものさんは私の顔を見ることも無く俯いてしまっていた。

 それでも手を引けばついてくる桃野もものさんは子供のように見えた。






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