第7話 嘘と本当


 マネージャーの仕事は簡単だった。


「そもそもマネジメントする相手に仕事がないからね。マネージャーは仕事のし甲斐がないね」

「……」

「そ、そうだけど。そういうこと直接言っちゃダメです」


 苦い表情をして黙り込む神田かんださんを無視して、レンちゃんはそのまま話を続けた。

 今はマネージャーとしての唯一と言っていい仕事である神田かんださんが演技しているところを録画した映像を見ていた。


「私も演技に関してはあまり詳しくはないですけど……結構様になってる気がしますよ?」


 一応比較のために残していた最初の演技の記録に比べれば凄い上達しているし、前に聞いていた現役A級探索者としての肩書を含めるならかなりいい感じに仕上がっていると思う。


「うーん、もうちょっとなんていうか雰囲気が欲しかったんだけど。まぁいいか」


 私が説得して、それでも駄目だというのがいつもの流れだった。でも、今日だけは違った。


「じゃあ、かなり練習は出来たことだし、そろそろ一歩踏み出そうか」



☆★☆



 レンちゃんに「僕はいかないけど、明人あきと君に教えてあるから頑張ってね」と言われて、向かった先はテレビ局だった。

 事務所から出てその人と合流した後、徒歩でテレビ局に向かう。


 経費削減とかそう言うものではなく、探索者としてレベルを上げている私たちからするとタクシーや車などは走った方が早いので使わないという事情がある。


「久しぶりだな明人あきと。」


 神田かんださんがそう声をかける先に居るのは青い髪をした青年だった。

 彼の名前は原田はらだ明人あきとさん。

 私も一時期レンちゃんに連れられてダンジョンにいくときに会ったことがある。


「ああ、そうだな……お前は元気そうでよかったよ。」


 ちらちらこちらを窺っている彼に、私は話しづらいのかと思い思い切って挨拶をすることにした。


「お久しぶりです原田はらださん。」

「ああ、えっと月島つきしまさんでいいのか?」

「はい、何でも大丈夫ですよ?」


 なにやら前よりもずっと警戒されている気がする。そもそも接点が少なかっただけに何が原因なのか分からない。


 その様子が気になったのか、神田かんださんは歩いている途中で原田はらださんと内緒話をしていた。でも、内容は聞こえない。


「どうしたんだよ。美女だからって気後れするタイプでもないだろお前。面識あるってボスから聞いたぞ」

「いや、正真しょうま。俺には、あの地獄みたいなおぞましい実験をされた俺には分かるんだ。あれを平然と受けているあの女は正気じゃねぇんだ」

「実験? いやあれはぽわぽわしてる頭お花畑な女だぞ。知ってるのか自分の《召喚》で出てきたモンスターたちにつけてる名前。ちーとかもーだぞ。あれの何が怖いんだ。」

「お前には分からねぇんだあの恐ろしさは……」

「答えになってないぞ」

「あの……」


 私が話しかけると、原田はらださんは即座に私の方に向き直って話を聞く体制をとった。

 神田かんださんは顔をむにゃむにゃして納得がいっていないと言いたげな顔をしているけれど、私の話す内容を聞いて真面目な顔に戻った。



「えっと、今回はレンちゃんにテレビ局についてから説明を聞くように言われてますけど、そろそろテレビ局に着きますし、原田はらださんはどのように聞いているんですか?」

「そうだな、月島つきしまさんは正真しょうまのマネージャーだったか、とりあえず目的の場所に歩きながら説明するぞ。」



 原田はらださんを先頭にテレビ局の中に入って、歩きながら説明を始めた。



「ああそうだ、その前にボスから月島つきしまさんへの伝言があるんだ。」

「あれ、そんなのがあるんですか?」

「『君の敵がそこにいる。負けないと思ってるけど、慎重に調べてね』だってよ。伝言はちゃんと全部伝えたからな? ほんとだぞ? 嘘じゃない」


 伝言を聞いて、私は即座に《召喚術》をつかって目立たないようにモンスターを召喚した。

 召喚に答えてくれたモンスターに音を立てないように指示を出して、私の側から離れてもらった。

 どらちゃんが召喚できるようになってからダンジョンで鍛えた探索者としての能力だ。


「いや、俺もこんなんじゃ伝わらないって言ったんだ。でもボスはこれでいいって聞かなくて……」

「いえ、分かりました。もう大丈夫なので、説明を始めてください」


 何やらびくびくしている原田はらださんの様子に首を傾げつつ、私と神田かんださんは説明を黙って聞いていた。


「今回ここに来た目的はオーディションだ。

 風間家が初めて作った芸能事務所『トワイライトプロモーション』の最初のタレント。神田かんだ正真しょうまのデビューを華々しく飾るための第一歩……だそうだ。」


 その内容に疑問を持っていたのは私だけではなかった。


「ちょっとまて、俺はもうデビュー作品は決まってる。ボスと一緒に映画の撮影も始めているが……さすがに映画を二本同時進行は出来ないんじゃないか?」


 やっとOKが出た映画撮影に続いてもう一つの作品のオーディション。神田かんださんはたまらず説明を遮ってそう言った。


「最後まで聞け。

 あーその、なんだ残念だったな正真しょうま。」

「はぁ? 何がだよはっきりものを言う明人あきとがなんでそんな言い方をするんだ?」

「いや、これはただの俺の感想だ。いいか最後までよく聞け。

 今回のオーディションは国が主導する探索者の促進を目的としたプロパガンダの映画だ。

 あらすじはS級を超える実力を持つ超級と呼ばれる世界的な探索者の男と、その超級に助けられて隣に立とうと奮闘する駆け出し探索者の女子大生の二人が主人公の軽い恋愛ものだ。現役探索者が監修をしていて、戦闘や訓練する様子をリアルにするのも特徴だそうだ。」


 淡々と話すその声は不憫な話をするような心配そうな色をしていた。

 そしてその内容には驚くほどに聞き覚えがあった。一度レンちゃんが私に説明してくれた神田かんださんが撮影しているという映画の内容。それが、今からオーディションに向かうという映画と全く同じだった。


「お前は聞き覚えあるだろう。昨日ボスから聞かされて驚いたんだが、あの映画の撮影、全部嘘だったらしいぞ。」


 それを聞かされた神田かんださんは膝から崩れ落ちて、しばらく放心していた。




 

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