囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
導かれた聖女
第1話
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
仕事を終え、同僚や先輩たちと共に更衣室にやって来た私は周りが楽しく会話を楽しんでいる中、黙々と帰り支度を整えて一人その場を後にした。
ドアを閉める直前、
「相変わらず、愛想がないよね、あの人」
同僚の一人がそう口にしたのを耳にしてしまったけれど、構う事なくドアを閉めて歩いて行く。
私は
兄弟はなく、両親は私が大学進学と同時に飛行機事故で亡くなり、祖父母も幼い頃に他界している事から数年前から天涯孤独となった。
幼い頃から本が大好きだった事もあり、大学時代は本屋でアルバイトをし、卒業後は公立図書館で司書として働いている。
人と接する事があまり得意ではなく、真面目で大人しい性格と周りから言われてきた私は気の利いた冗談なんかも言えず、職場でも一人浮いていて陰口を叩かれる事もしばしば。
どこへ行っても心を許せる人に出会えず、友達と呼べる人も特にいなければ、恋人もいない。
傍から見れば、きっと私はつまらない人間なんだと思う。
けれど、これからも生き方を変えるつもりはない。
私は両親が亡くなったあの日から、一生一人で生きていく覚悟すら決めているのだから。
職場の図書館から自宅までは徒歩で約二十分程。
いつもの様に黙々と歩みを進めていると、見慣れない建物が目に入ってきた。
(こんな所に、建物なんてあったっけ?)
住宅街に、ひっそりと佇む一軒の建物。
不思議な事に、いつも通る筈なのに見覚えがない。
「……何だろう、凄く、気になる」
若干の不安はあるものの、どうしても気になって仕方がない私は、まるで導かれるようにドアに手を掛けて開けて店内へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
奥の方から店主らしき人の声が聞こえてくるが、姿は見せに来ない。
(不用心な店だな……)
そう思いながらも辺りを見回して見ると、どうやらここは雑貨屋のようで様々な雑貨が所狭しと並んでいた。
「可愛い……」
客もなく、店主も姿を見せない中、軽く店内を物色し始めた私。
すぐ近くの棚にある小さなオルゴールが目に入ってきた。
「……どんな音色なんだろう」
この建物を見つけた時同様、何故だか無性にこのオルゴールが気になり、更には音色を聞きたくなってしまった私はゼンマイを回して音を鳴らす事に。
すると、
「なっ!何!?」
ゴオォォォという地鳴りの様な音と共に突然強い揺れが起き、驚いた私は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
「あっ!」
オルゴールを拾おうと手を伸ばした、その瞬間、
「きゃっ!」
辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った私の記憶はここで一旦途切れてしまった。
「……ん……」
肌寒さを感じて目を覚ました私が重い瞼を開けると、
「……ここ……は?」
辺り一面、緑に覆われていた。
どうやらここは森の中の様で、周りには木々が沢山あり、木々が風に揺れている。
記憶を失う前、私は確かに室内にいた筈なのだが、何故か森の中に身を置いている状況だった。
「何で……」
自分の置かれている状況がよく理解出来ず、半ばパニック状態。
それに薄暗い事を考えると、もうすぐ陽が暮れるという事。
こんな森の中にいつまでも居ては風邪をひくどころか命の危険すらあるだろう。
「とにかく、ここから出ないと……」
立ち上がった私は森を抜ける為一歩踏み出すも、
「……って、どっちに進めばいいのよ」
道の真ん中辺りに倒れていた私は前方後方どちらに進めばいいのか分からず途方に暮れていた。
そんな時、
「こんな所で何してる?」
後方から声を掛けられ振り返ると、そこには三人の男性が立っていた。
「あ、えっと……」
薄暗い森の中、訳の分からないこの状況下に突如現れた三人の男性。
正直恐怖でしかないけれど他に頼れる人は居らず、ひとまずここが何処なのかを確認する事にした。
「その……どうやら、道に迷ってしまったようで」
見たところ、男の人たちは自分と同じ歳くらい。
一見優しそうな風貌ではあるが、何というか、違和感を感じる。
何が原因かと思えば、瞳や髪の色だという事に気付く。
「道に迷った? っていうか、こんな森の中で何をしてたの?」
「怪しい奴だ」
「確かにな。ここに来る奴なんて、滅多にいない」
私の言葉に三人は眉根を寄せて怪しみ、口々に言う。
「すみません、それが、よく分からなくて……」
これ以上怪しまれても困るので、私は藁をもすがる思いで記憶を失い目を覚ましたら森の中に倒れていた事を掻い摘んで説明してみた。
「突然森の中に飛ばされたとか、そんな摩訶不思議な事、起こるはずないだろう」
「気を失った訳だし、誰かに連れ去られたとかじゃない? 最近は物騒な世の中になったし」
「そうだな」
「何にしても、こんな得体の知れない奴と関わるのは勘弁だな」
怪しまれない為に事実を話した筈が余計怪しまれてしまった様で、更に警戒されてしまう。
「あの! 本当なんです! 気付いたらここに居て……私、どうすればいいのか分からなくて……」
何にしても、今この人たちに見捨てられる訳にもいかず、必死に訴え続けていると
「……まぁ、とりあえずもう日が暮れるし、ひとまず俺らの屋敷に案内しようか」
「そうだな。女一人ここへ置いていく訳にもいかないし」
「……ッチ。何でもいいけど、俺は関わり合いになりたくねぇからな」
「はいはい。分かってるって。キミ……とりあえず俺たちに付いておいでよ」
半ば仕方なくといった感じではあったものの、三人の住まいへと連れて行って貰える事に。
この森から出られる事になった私はひとまず安堵した。
勿論、見ず知らずの人の家に行くなんて普通じゃ考えられないけれど、こんな森の中で一人夜を過ごすのはもっと耐えられない。
「お、お願いします……」
それにこの状況を整理する為にも、もっと詳しく話を聞くのが一番良いと判断し、私は彼らについて行く事を決めた。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜 月嶋ゆのん @tsukishima_yunon
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