もしも私が魔法のように在れたなら
うに豆腐
第1話 じゃあさやってみる?
「その魔法は、貴女を写す鏡だよ」
「心から求める時、それは顔を見せてくれるわ」
「使えないのは、今はその時ではないだけ」
「世界を、そして、未来を」
「貴女と共に、歩む日がきっと」
「夢という旅の中で」
「かけがえのない、想いと一緒に……」
ピピッピピッ
バタン!
「んはっ!?」
変な夢を見た……
「嫌になりそう、ほんと」
数時間後……
201x年 東京 某アパートにて。
「うーん……まずいな……」
そう、生活費が無いのだ。
大学生だった頃からバイトはしていたものの、食費、税、家賃......年々高くなり続ける費用に対しての給与が足りなさすぎるのだ。
「一人暮らしを始めたのは自分だし、自分が悪いけどさ、だとしても家族とは向こう3〜4年位会ってないしな……」
「会ったとしても気まずくてあれだし」
「どうしようかな……」
「お腹減った……」
新たに掛け持ちでバイトを探して見るものの、都合の良い条件の所なんてありもせず、空虚にゾンビの様に探して続けて2日、到底見つかるはずなくただ日々が過ぎて行くだけ。
チラッ
部屋の隅にある本が視界に入るけど、でも……本は……気分じゃないな。
「もういいや……」
何も食べてないからなのか、脳みそに血が足りないせいなのか、何故かマイナスな事ばかり考える。
「はぁやっちゃった掃除すんの大変なのに」
私には魔法とか言う厄介にしかならない力擬きが宿ってしまっている、なんで宿ってしまったんだろ、周囲に灰しか降らせる事しか出来ないのに。
「下の人に文句言われるの自分なのに」
「邪魔にしかならない……」
そう言うと余計勢いが増す、お説教が待ってるかな。
「後ででいいや……」
「気分転換しに行こうかな」
駅から徒歩20分の立地の良い物件で、家賃は安いという言葉に乗っかってしまった事からこのアパートに住む事になった。
18の頃、高校卒業とともに逃げるようにやってきた東京で、何も知らない土地で、バイトで貯めた少ない貯金をもって住める所がここしか無かったのも理由としてはある。
家具も電子機器も何もない寂しい部屋から扉の外側へ、錆びた鉄の通路を数歩で渡り階段を降りると、あっという間に人気の無い小さな道路に。
「こういう所はいいんだよほんとに」
「ただお前だけは許さん魔法め」
昨日だって大家さんに怒られたばっかなのに、それを覆すように追い討ちをかけてくるんだ。
何も通らない道路から徒歩15分で大通りに、春の風が妙にくすぐったく、上着着てくれば良かったなとちょっとだけ思ってしまった。
「そうだな、コンビニでも行こうかな...」
一枚のくたびれた真っ白のTシャツに柄の無いネイビーのロングスカート、そして通販サイトで500円で買ったサンダルというアンバランスなコーディネートに危機感を持ちつつ、恥ずかしいのかは知らないけれど知らない間に足の速度を早めて目的地へ。
人の声、不協和音、車のクラクション、信号の音。
元々、こういった所に住んでいなかった私にとって、住み始めた頃は生活もままならなかったが、いざ長く住むと……
「慣れってすごいなー……」
歩く途中で前に買って美味しかったパン屋さんが目に入る。
「うーん」
道の端っこに身を寄せ、懐から財布を取り出す。
お金入るまで、買えないかな……そう意外と高いんだ。
「まぁ、先を急ぎますか」
「ここら辺かな……」
タッタッタッ
曲がり角を曲がったら……コンビニッ!?
「んぐっ!?」
「ぐわっ!」
ドタッと大きな音を立てて後ろに倒れる。
なんなんだ一体....
「走るの危ないって何度言ったらわかるんです!? リーダー!」
「うん……?」
「わっ!? これはごめんなさい! 怪我はなかったですか?」
「いったぁー……いいよ……気にしないで、不注意だった私が悪いので」
額を触るとちょっとだけ生温かい液体が流れているのがわかる。
うーん不運だ。
「あわわわ血が出ちゃってる!?」
「やばいですよ! リーダー! これで訴えでもされたら私達予選になんて出れませんよ!」
「だからあれ程走ったら当たるって言ったのに!」
「あちゃー本当に申し訳ない治療はこっちがするからついてきて」
「大丈夫! すぐそこだからさ」
怪しい....が嘘を言ってる訳でもなさそう。
「わかりました……」
歩いて徒歩5分、ほんとに近かったわ。
「ささ、入って入って」
ガチャッ
「っ!?」
玄関を上がると直後に香水?の強い香りが外まで突き抜ける。
ちょっと鼻が曲がりそうだ。
「うわっ、さてはあいつ香水溢したわね……」
「今日は流石に文句の一つや二つ言わないと気が済まないわ!」
ズカズカと奥までリーダー? と呼ばれる人が進み角を曲がって見えなくなる。
そこまで時間がたたない内に口論する話し声が響く。
「はぁ……すみません……いつもこんな感じなんです」
「そ、そうですか」
「じゃあ私についてきてください」
特に何の変哲もない玄関を進みリビングに出ると、優しそうな人が手前にある棚から、消毒液と絆創膏を取り出しささっと無駄のない動きでこちらに寄ってくる。
「どうぞ、座ってください」
「はい」
普段もこんな手当をしているのだろうか? ガーゼに消毒液を当て濡らした後、絆創膏の粘着部分に手こずることなくものの数秒で終わってしまった。
いや、すごいな、ちょっと関心しちゃうぐらい早い。
「改めて申し訳ありません、うちのリーダーが……」
「いえいえそうお気になさらず」
冷静になって考えて見ると、こうして他人の家にいる事自体すごく久しぶりな気がする。
変に緊張してしまい手汗がでてしまう。
「えっと、じゃあこれで……」
「あの、せっかくですしお詫びがしたいので食事でもなされてはどうでしょうか?もうすぐお昼ご飯なんです」
へ!? これは思いもしなかったお誘いがきた。
暫く食べてなかったし、1日開けてからっからの胃袋に反する事はしたくない、だけど自分の良心が問いかけてくる。
本当に食べていっていいのだろうかと、迷惑なんじゃないかなと、それでも流石に餓死だけは嫌だなぁと思ってしまった。
「じゃあお言葉に甘えて」
「もちろんどうぞ、ゆっくりしてってください」
「では私は食材を買ってくるのでくつろいでいてください」
手当を施してくれた親切な人が立ち上がり消毒液を棚に戻した後、玄関の方へ向かう姿を見送って、特にやることはないから、リビングでゆっくりすることにした。
それにノータイムで世話になってしまう選択肢がでてしまう私の方にも非はあるんです、こちらこそありがとうございます。
「しっかしなんだか、夢みたいだなぁ」
「無料でご飯食べれちゃうなんて今日はついてるね」
ソファにもたれ掛かり静かになったリビングの中で耳をすませてみると、廊下を歩く音が聞こえる。
二人かな? さっきの口論が終わったのか……
トタトタトタ
「いい!? これからも説教くらいたくなかったら枕の横に香水置かないでね! わかった!?」
「リーダー....この前も言いましたがそれは誤解なんです、私枕の横に香水なんて置いたことないんですよ……」
「はぁ、私の能力を知っててそれを言っているのなら無謀としか言いようがないわよ」
「あー……はい……」
気まずそうに青ざめた顔で説得する外国人? が現れたことで不覚にもどんな顔してたって美人は美人だなぁとふと思ってしまった。
それにしても流暢によく話せるなぁ。
はぁ、それにしても生活どうしたらいいんだろ……
「あれ? ミレアはどこに行ったの? 貴女に手当してたはずでしょ?
「それが、ご飯を食べてってと言われてしまって食材を買いに行っているようなんです」
「あれ? そうなんだ、じゃあゆっくりしてってね」
「えっと、この人誰なんですか?」
「あーそうだったわ紹介してなかったし折角だから紹介しましょうか、私はリリー、こっちの説教されて落ち込んでるのはカルア、よろしくね」
「私は立花光です」
「うーんじゃあ紹介が済んだ所で、貴女お金に困ってないかしら?」
!? なんでわかるの? 何もまだ言ってないはずなのに……
「あー私心が読めるのよ、そういう能力」
「なるほど....じゃあ言わなくても分かるんですね」
「そう、それでわかってもらえたならいいわ」
「それに貴女……魔法使えるわね」
「そんなことまでわかるんですね」
「ええ、わかりたくなくてもわかってしまうのよ、目を塞いでても声や話し方で全て見えてしまうぐらいには」
「あとは、本人が魔法を持っているかどうかもね」
「だからわざとぶつかったと?」
「ええ、けれど血を出してしまったことについては心から申し訳ないと思っているわ」
「それと本題に入るのだけど」
「簡潔に言うわ」
「?」
「貴女、私達のチームに入ってみない?」
「へ?」
この物語は、思いがけずしてチームに入った事がきっかけとなり、仲間と今を見直す物語だ。
そして、これは、私がほんの少し強くなるお話。
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