理外の復讐者、復讐があるけど冒険も楽しむ!~あ、それルール適用外です。戦闘システムが違いますので~

小龍ろん

第1話 理外の復讐者

「お前がグレドか?」


 我の言葉に男がゆっくり振り返る。


 中年の男だ。その足元には血溜まりができていた。その中に赤い髪の少女が倒れている。どうやら、凶行の現場に出くわしてしまったらしい。


 犠牲者の少女も運がないな。もう少し生き延びることができていれば、死の運命から逃れられただろうに。まぁ、いまさら言っても仕方がないことか。


「なんだ貴様は?」


 血塗れの剣を隠すことなく、男が尋ねてくる。まぁ、答えてやろうか。


「我はリビカ。お主に用があり追わせてもらった。もう一度問おう。お主は第二迷宮の解放者の一人、グレドで相違ないか?」


 我の問いに男がわずかに身じろぎする。


「ガキが俺に何の用だ?」


 答えないか。だが、この反応、コイツがグレドで間違いないようだ。見つけ出すのに苦労するかと思ったが、意外と簡単に見つかったな。


「なに、お前にはちょいと死んでもらうと思ってな?」

「俺を殺す気か? 貴様が? くははは!」


 冗談とでも思っているのか、グレドは無邪気に笑っている。やれやれだな。我の実力も見抜けないとは。


「殺す気だとも。我はそのために生まれてきたのだからな」


 剣を構えると、呑気のんきなヤツにもようやく身に迫る危機が感じ取れたようだ。笑いを収め、鋭い視線を向けてきた。


「貴様、何者だ?」

「それはさっき答えたろうが。まぁ、お前にはリフィスの縁者と答えたほうが通りが良いか?」


 リフィスの名を出すと、グレドは大きな反応を示した。やはり、我が父を知っているか。


「馬鹿な、奴は死んだはず!?」

「殺したはず、の間違いではあるまいか?」


 思い当たる節があるようだな。グレドの目には憎しみと怯えが見える。


「お前らは殺したと勘違いしたようだが、我が父は生き延びていたのだ。そして、この迷宮都市を脱し、辺境の地にて我らを生み出した」

「……リフィスは今も生きているのか?」

「いや、死んだ。我に復讐を託してな」

「くふ……そうか、ならばお前さえ死ねば、問題はない!」


 グレドが懐から何かを取り出し、飛ばしてきた。一瞬きらめいて見えたそれは、おそらく魔法込めた宝石の類であったのであろう。解き放たれた魔力が業火となって我が身を焼いた。


「くくく……どうだ、魂まで焼き尽くす禁呪の味は? ガキにはもったいないが、リフィスの縁者ならば確実に仕留めておか……ねば……」


 グレドの言葉が途切れた。我を見て、目を見開いている。火傷やけどひとつない我の姿に動揺しているようだな。


「な、何故……何故生きている!」

「まぁ、なかなかの威力ではあったが……我は理外の存在であるからな」

「理、外……? 何を言っている?」


 グレドは呆然とたたずんでいる。敵を前にずいぶんな油断だが、状況に理解が追いつかないのだろう。


ことわりとは世界を支配する決まり事。神の定めたルールだ。システムや計算式……といったところでお前には伝わらないだろうがな」


 我は理外……つまり、理から外れた存在。そのため、この世界のルールに縛られない。


 たとえば、人の成長限界。我はこの世界のいかなる者よりも遥か高みに到れる。


 あくまで目算だが、我とヤツとではこれくらいの差がある。理が違うため、単純比較はできないが、その差は歴然だ。


――――

リビカ

Lv.232

H P:72328  M P:32790

ATK: 8342  MAT: 6735

DEF: 7635  MDF: 7219

SPD: 8432  LUK: 5237

――――

グレド

レベル:31

生 命:512  マ ナ: 97

腕 力: 31  魔 力: 15

体 力: 33  精 神: 17

敏 捷: 19  幸 運: 20

――――


 先程の魔法はこの世界の住人ならば即死級だったであろう。しかし、我にとってはさほどのことでもない。何故ならばそう、生命力の桁が違うのだ。文字通りにな。


 戯れに説明してやってもいいが……いや、時間の無駄だな。もっとわかりやすくいこう。


「お前では我に勝てん、ということだ。それだけわかっていれば充分」

「ふ、ふ、ふざけるな! 俺がガキ相手に負けるわけが、ない!」


 挑発の意図はなかったが、結果としてそうなったようだ。逃げられては困るので都合は良い。さっさと片付けてしまおう。


「な、に……?」


 グレドが呆然とした顔で我を見る。何をされたのかわからんといった表情だ。


 別にたいしたことはしていない。ただ剣でひと撫でしてやっただけのこと。


 とはいえ、我と奴では隔絶した能力差がある。そのひと撫でで奴の体は両断されたというわけだ。


 しかし、それを伝えたところで……


「ああ、もう死んでいるか」


 気がつけば、真っ二つになった奴の体が転がっている。


「終わったの?」


 通路の影から顔を出したのは兎のような姿。我が妹のミスルである。


「終わった。大したことはなかったな」

「そりゃ、リビカならそうでしょうね」


 ミスルが呆れたような目を向けてきた。まったく、兄に対しての敬意が感じられんな。コイツはどうも自分のほうが姉だと思っている節がある。


「あっちの女の子は?」

「わからん。我がたどり着いたときにはすでに倒れておった。辻斬りでもされたか」

「グレドに? 父様の言う通り、とんでもない奴だったのね」

「そうだな」


 殺さなければならない相手だ。善人よりは悪人のほうが殺りやすくて助かる。が、眼の前に犠牲となった者がいれば複雑な気分になるな。


「あれ? あの人、まだ生きてない?」

「なに?」


 慌てて赤髪の少女のもとに駆け寄る。口元に耳をやると、浅いながらも呼吸があった。


「ふむ、気づかなかったな。だが、これならば間に合うな」


 我が理において、死者を蘇らせることは決してできない。だが、死んでいなければどうとでもなる。


 知り合いでもない女を救う義理はないが、これも何かの縁だ。復讐の代行という使命を負っているのだから、ここらで釣り合いをとっておくのも良いだろう。ま、ただの気まぐれだな。


 女に手をかざし、癒やしの魔法を使う。腹部の傷が塞がり、呼吸も安定してきた。これならば、大丈夫だろう。


 失った血も戻るので、じきに意識を取り戻す……と思った矢先に、少女がぱちくりと目を開いた。


「王子様?」

「もう少し寝ておけ」


 わけのわからない単語が聞こえてきたので反射的に睡眠魔法を放ったが、我ながらナイス判断であった。


「王子様だって?」


 ミスルがニヤニヤと笑っている。まったく何が正しいのやら。


「寝ぼけておったのであろう」

「間違いないわね! リビカを王子様だなんてありえなさすぎるもの!」


 そこまで言う必要はないだろうに。反論すると、それはそれでからかわれそうなので黙っておくが。


「それはともかく、リビカ、その喋り方どうにかならないの? 街の中だと、確実に浮くわよ」


 ミスルは二つの足でひょいと立つと、腰に手をあて説教してくる。喋り方を兎にとやかく言われたくはないが、ミスルの言うことにも一理あった。


「ふむ、善処しよう」


 復讐の対象は一人ではない。目立つ言動は避けた方が良いというのは道理だ。


 まぁ、やむを得んか。この話し方では我の威厳を隠しきれん。


 溢れるほどのカリスマもこういうときは困るな!


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