転移者マンション〜転移出来なかったら家賃全額返金します〜

山親爺大将

第1話 賃貸契約

「はい、はい、そうですね。 ご用意していただくのは、ご家族宛の手紙と敷金、礼金、前家賃12ヶ月分で150万と消費税ですね」

 少しメタボでタヌキがスーツを着ている。

 そんな印象の男が分厚い契約書を見せながら説明していた。


「確認なんですけど、本当に異世界転移出来るんですよね?」

 中肉中背のなんの特徴もない男が、いかにも気弱そうに質問していた。


「大丈夫ですよって言ってもご心配でしょうから、あちらの世界から帰って来た方ご紹介しますね」


「そんな人居るんですか?」

「ええ、もちろん! 岡田さーん! すいませんけどコチラに来てもらって良いですかー」


「あ、どうも、岡田です」

 2m近い身長で、プロレスラーのような体躯の男が窮屈そうにスーツを着て挨拶をしてきた。


「この方が異世界から帰ってきた岡田さんです」


「あ、あ、どうも」


「あーせっかくのご縁ですし、これ、向こうの世界のハウツー本です」

「え! 良いんですか?」


「どうぞどうぞ、是非あちらの世界でもご活躍ください!」

 なぜかメタボタヌキが応える。


「ありがとうございます!」

「じゃあ、ご契約でよろしいですか?」


「はい! よろしくお願いします!」


 ー1ヶ月後ー


「旦那ぁ、この間の新人転移しやしたぜぇ」

「思ったより時間かかったな、じゃあ『オープンウィンド』」

 メタボタヌキが無造作に呪文を唱えた。


 その呪文と共に何もない空間に映像が浮かんでくる。


「おう! そっち行ったぞ、代金はいつもと同じで良いぞ」

『今度は使えるやつだろうな?』


「知るかよ! チートはランダムだろうが! それに使えなくても損はしねぇだろ?」

『まーな、最悪奴隷に落とせば元は取れるな』


「じゃあ、さっさと代金をその箱に入れろよ。

 いつも通りハウツー本持たせてるから、冒険者ギルドに行って登録するから逃す事もないだろ?」


『あぁ分かった、また宜しくな』

 その言葉を最後に空間に何も無くなる。


「しかし、旦那の方が本当は帰還者だなんて誰も思わないですなぁ」

「まぁ、世の中見た目のはったり重要だからな」


 異世界で時空魔法を極めた男は、ある日元の世界に帰ることが出来る事に気づいた。


 当然元の世界に帰ろうと思ったが、ふと不安になった。


 元の世界で自分はどうなっているんだろうか?

 異世界で何十年も生きてきて、十代の少年はすっかりメタボなオッサンになっていた。

 もし、転移した時から同じ時間が経っているなら、自分の知らない世界になっている。

 逆に時間が経っていないなら……自分が知らない存在になっている。


 元に世界に帰りたい。

 しかし、今更貧困な生活なんて送りたくない。


 そんな男が考えたのが、異世界転移斡旋業だ。

 最初は色々問題もあったが、最近は軌道に乗ってきた。


 このマンションの屋上に巨大な魔法陣を仕掛け、各部屋の天井に別の、魔法陣を置く。

 異世界転移したい住人に毎日簡単な儀式をしてもらって、魔法陣に住人の魔力を充填させていく。


 一定量溜まると異世界に転移する。

 もちろん一方通行だ。


 伝説の時空魔法を極めた男でさえ、もう一度戻って来れるか分からない。


「俺は活躍してくれる事を祈ってるぜ」

 誰も居なくなった部屋に向かってそう呟くのだった。


【後書き】

 お読み頂き、ありがとうございます。

 この作品はカクヨムコン参加作品です。

 カクヨムコンは星の獲得が非常に重要になりますので、少しでも入れて頂ければ作者は泣いて喜びます。

 長編も書いているので良ければ見てください!

 https://kakuyomu.jp/works/16818093081579462826


 この作品を『おもしろかった!』と少しでも思ってくださった方は↓の『☆☆☆』を『★★★』に評価して下さると本当に助かります。

 よろしくお願いします。


 星いっぱい付いたら続き書きます。

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