第27話 有栖川に出会えたから

 センターで踊る有栖川は圧倒的にダンスのキレがいい。しかも髪の先まで自在に操っているみたいだ。

 それだけじゃない。曲の雰囲気に合わせて表情を変えている。いつもとは違う有栖川の表情には、ついドキッとしてしまう。


 本物のアイドルみたい……!


 学生が練習してきました、という他の人たちとは違う。有栖川の動きも表情も、プロにしか見えない。

 これほどのダンスを習得するまでに、いったい有栖川はどれほどの練習を重ねたのだろう。


 ううん、きっと、練習だけじゃない。

 有栖川には、アイドルの才能がある。私はアイドルのことなんてなにも分からないけれど、それくらいは分かる。


 眩しい。羨ましい。頑張れ。妬ましい。応援したい。置いていかないでほしい。


 いろんな感情が頭の中を駆け巡る。処理できないほどの感情が渦巻いているのに、視線だけはずっと有栖川に奪われたままだ。


「……あっ!」


 目が合った。有栖川は今、絶対に私を見てた。

 あの笑顔は、私に向けたものだ。


 全身が熱くなる。アイドルを応援する人の気持ちなんて理解できなかったけど、今、完璧に理解してしまったかもしれない。


 だってアイドルって、どうしようもなくきらきらしてる。


 これほど輝くために、有栖川はたくさんの努力を重ねてきた。無茶なことだってしたと思う。何度もオーディションに落ちて、絶望したことだってあるかもしれない。

 だけど有栖川はそのたびに立ち上がって、今こうして、ステージの上に立っている。夢を叶えるために、ずっと頑張り続けてる。


 気づいたら私は泣いていた。コールが飛び交う曲で泣いている人なんて、きっと私しかいない。


 でも私は、ようやく今、気づくことができたのだ。


 夢に向かって頑張る人は、とても輝いているんだということに。


 自分のことはずっと、そんな風に思えなかった。才能もないのに夢を諦められなくて、ずっと苦しかった。夢を捨てられない自分が恥ずかしかった。

 叶わない夢を追っていることを馬鹿にされそうで、他人に自分の夢なんて言えなかった。


 有栖川に出会ってなかったら、私は一生、そんな考えに支配されていた気がする。


 もちろん才能は大事だし、叶わなくてもいい、なんて言えるほど大人にはなれない。だけど夢を追うこと自体は、きらきらしていて、ときめくことなんだ。

 馬鹿にされたり、笑われるようなことじゃない。


「うさぎー!」


 たまらなくなって、私は有栖川の名前を叫んだ。あまりの大声に目を見開いた後、有栖川が私に向かってハートを作ってくれる。


 書きたい。私、今どうしようもなく、小説が書きたい。

 伝えたいんだ。有栖川が私に教えてくれたことを。私がずっと、認めてあげたかったことを。


 夢を追いかけるのは、最高にときめくことなんだってことを!


 そう伝えられる物語を、きっと、私はずっと望んでた。





 あっという間に15分間のステージは終わった。10分後に、受付のあるフロアで特典会が始まるらしい。

 乗り遅れたら大変だ。慌てて人混みをかき分け、特典会ブースへ向かう。急いで並んだおかげで、前から三番目に並べた。


 特典会にきてる子も、やっぱり知り合いっぽい子が多いな。


 若い女性客はたぶん、大半が有栖川か、他のメンバーの知り合いだろう。そう考えると、純粋な客はそれほど多くない。


 まあ、そうだよね。


 私だって見にきたのは、有栖川がいたからだ。有栖川がいなかったら、きっとこういうイベントには一生こなかっただろう。


 特典会が始まると、レジ係のスタッフからみんながチェキ券を買い始める。混雑緩和のため、一度の会計で買えるチェキ券は3枚までだという。

 当然のように私はチェキ券を3枚購入し、有栖川に差し出した。


「翡翠さん。ステージからも、ちゃんと見えましたよ。ペンライト、二本も持ってきてくれてましたね」


 衣装を着ているからか、他の人の視線があるからか、家で見るいつもの有栖川とはわずかに雰囲気が違う。

 それでも私に向ける笑顔は他人へ向けるそれとは違う気がして、なんだか嬉しい。


「すごくよかったよ、本当に」

「本当ですか?」

「うん。時間ないだろうし、細かい感想は言えないけど」


 特典会の列は長い。チェキ撮影時とはいえ、長く会話をしている余裕はないだろう。


「チェキ、ツーショット一枚と、ソロが二枚でいい? 時間が間に合えばまた並ぶけど」

「そんなにいいんですか?」

「うん。今日の記念、欲しいし」


 有栖川の写真なんていつでも撮れる。でも、今日の有栖川とチェキを撮れるのは今だけだ。


「ポーズ指定とかあります?」

「うん。これ、ネットで調べてきたんだけど……」


 スマホに保存していたチェキポーズ集を有栖川に見せると、有栖川はくすっと笑った。


「翡翠さん、めっちゃ楽しみにしてくれてたんですね?」

「……悪い?」

「いえ、最高に嬉しいです」


 にやけている有栖川は私のことをからかっているとしか思えない。

 ……でもまあ、いいか。にやけ顔の有栖川も可愛いんだし。

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