第19話 スカーレットの誉れ
翌朝。改造済みメイド服に着替えた二人は動き続ける歯車の街を西に抜け、より配管や建物の錆が激しい地帯まで出た。都心に比べて人の往来は少なく、ちらほら目に留まる人々は顔を隠していたり、びっしりと刺青が入っていたりとどこかガラが悪そうだ。
「ここは旧市街なんだ。ゴロツキやギャングがわんさか住んでる」
荒々しい街の雰囲気におどけるロザリーに反し、ゾイドは何の気なく歩を進めている。
道幅の狭いメインストリートには廃材が転がり、口に出すのも憚られるような名前のバーやクラブの看板が行く手を閉ざすかのように並んでぶら下がっている。左右に並んだ三階建てのボロ屋群はメインストリートを包みこもうとしている風に曲がって見えた。
珍しそうに物色していると、ゾイドが背中で言った。
「そんなキョロキョロしなくてもロゼが興味ある店なんて一つもねーよー」
「で、ですね~……」
変に目立って怖い現地人から目を付けられることだけは避けたい。小走りでゾイドに駆け寄ると、いつもよりも若干距離を縮めて並んだ。
「ゾイドさんはこういうとこ慣れてるんですか~?」
「慣れてるってか、育ったのがこういう場所だったってだけー」
彼女の雰囲気を思えば不思議には感じない。今この街で浮いているのは誰が見てもロザリー一人だけである。ゾイドはスラム街の歩き方を簡単にレクチャーした。
「極力誰とも目を合わせるな。どんな時でも最低五十センチは距離を取れ。なにか目的がある風を装って歩き続ければ絡んでくる輩は少ない。そして売られた喧嘩は――」
「かわいー嬢ちゃんたち~。ちょっと遊んでくんねーかな~?」
二人の先を数人の男たちが塞いだ。金髪に刺青、いかにもチンピラといった風体だ。
ゾイドはダルそうに肩を落とした。
「――売られた喧嘩は必ず買え。どんな相手でも、数的不利でも関係ねー。それがアタシたちヴォルビリス遊撃隊の教示。スカーレットの誉れってやつー」
「どれだけアタシらが気を付けてもこういうコテコテの奴はいる」
そういう彼女の背後で、ロザリーはすでに二本の暗器を抜刀していた。裸の上半身に彫られた特大髑髏の刺青と鼻ピアス。怖すぎる。今すぐに排除せねば。
「おーなんだロゼ、さっそくやる気満々じゃねー?」
「ここここ殺せばいいんですね!?!?」
「いいわけねーだろバカ! 教えただろ、人はミネウチってー!」
ゾイドの忠告を無視して走り出していた。身体が勝手に動く。感じたことの無い恐怖を原動力に生存本望が稼働を始めたらしい。
チンピラたちはこちらの挙動と両手に持った禍々しい獲物に戸惑っている。またとないチャンスだ。ぐるぐると渦巻いた目で突撃した。
「死んでくださ~~~~いいいいい!!!!」
「だから殺すなってー!!」
振り下ろした右の暗器が一人のヘッドギアに直撃し、失神。斬り上げた左の暗器の反りがまた一人の股間に直撃して、同じく失神。遅れて反撃に出た二人の顎を柄で打ちのめし、最後の一人を持ち前の石頭で完全撃墜した。
その間五秒。つい先ほどまで勇んでいたチンピラたちは白目を剥いて地面に伏し、残った数人はバケモノだカイブツだと喚きながら恐れを成して逃げて行った。
ゾイドが口角をピクピクとさせている前で、緊張の糸が一気に切れたロザリーはぱたりと倒れてしまった。
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