第18話 相部屋
筆圧の強くなった手紙を書き終えると、花柄の封筒に入れてお花のシールで封をした。はあ、と一息着いた背中に声がかかった。
「手紙なんてもの好きだなーロゼは。電話すりゃーいーじゃん」
彼女は二段ベッドの一階に寝そべりながらコミック雑誌を片手にスナック菓子をつまんでいる。口元から欠片がボロボロと落ちる。
「手紙でしか伝わらない感情があるんですよ~だ。それはそうとゾイドさんっ! 寝ながらお菓子を食べないでって何度言ったらわかるんですっ!?」
「うっさいなー。別にいーじゃん。ロゼが掃除してくれるんだしー」
「だからっ! ですよっ!」
聞く耳を持たないゾイドからスナック菓子を取り上げようとするがひょいひょいと躱される。
メイド隊入隊から早一月。ゾイドと相部屋になったロザリーはやれ陣地だ、やれどっちのベッドがいいだと揉めに揉めた。その度にゾイドはトランプやチェスなど、なにかしらのゲームの勝敗で決めようと提案し、そのすべてでロザリーはあっけなく瞬殺された。おかげでただでさえ狭い部屋の三分の二がゾイドの領地、揺れの少ない一階のベッドも奪われた。そのくせ掃除や料理はこちらの担当。なぜゾイドの脱ぎ捨てたヒョウ柄のキワドイ下着を自分が洗わないといけないのか。
頭にきてスナック菓子ごとゾイドに布団をかぶせる。もごもごと中で暴れる身体に覆いかぶさって閉じ込めた。今の自分にできる最大限の抵抗がこれである。
「二度と寝ながらお菓子食べないって約束しなさいっ!」
「うるせえーっ! お母さんかお前はーっ!」
一月の間で確立したポジションを思えばあながち間違いではないかもしれない。
布団の檻を抜け出したゾイドはお返しにと後ろから豊満な胸を揉みしだいてきた。顔を真っ赤にしながらやり返す。
卑猥な攻防の末、疲れ切った二人は並んで寝ころんだ。
「ちっ……このデカパイが……!」
「ゾイドさんが揉むからおっきくなるんですよ……! ブラ代請求しますから……!」
身体を起こしたゾイドが額の汗を拭った。
「明日初任務っつったろー。こんなことでヘトヘトになってどーすんだよー」
「ゾイドさんの行儀が悪いからでしょ~!?」
「行儀もクソもねーだろー! 家なんだからー!」
「女の子がクソとか言わない! ふしだらですっ!」
眼の色を変えたゾイドは指を獣のようにした。
「ふしだらはこのデカパイだろ! こっちのデカ桃尻もだ!」
再び乱雑に揉まれる悩みの種。こうして二回戦は始まったのだった。
夜。消灯した部屋の二段ベッドの上で、膝を抱えたロザリーは冷気の流れる窓辺から外を眺めていた。
巨大なボイルタワーの六十七階。スチームパンクの街並みがキラキラと光る天の川のように映る。この光の一つにフラピーチもあるのだろうか。そう考えると、とんでもなく遠い場所に来てしまったと改めて思い知らされた。距離的な遠さはもちろんだが、それ以前にもっと感情的な距離を感じた。
ベッドの端には先ほど書き終えた封筒が置かれている。
「ネリおばさん元気かな……」
夜空を見上げて呟いた。そこにはまた違った天の川が輝いている。
下から布団が擦れる音が聞こえた。
「ホームシックかよ、ロゼー」
ゾイドはいつの間にか「ぷたぷに」なる別称を呼ばなくなった。それは自分のヴォルビリスと同じ能力故なのか、はたまた成長故なのか。理由はわからないが、どこか仲間と思ってくれているようで内心うれしかった。
「いつものうるさいイビキが聞こえないと思ったら。まだ起きてたんですね」
当然のように「うるせぇー揉むぞ」と返ってくる。
一間置いて、ゾイドは問いかけてきた。
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさー。ロゼってなんでメイドになったんだよ」
少し驚いた。ゾイドのこんな真剣な声色は初めて聞いたような気がした。
ふと考えてみると、頭の中には鳥籠に閉じ込められたあの少年の姿が浮かんだ。が、いくら衣食住を共にするルームメイトだからといってそのことを話すわけにはいかない。
「叔母さんに散々言われて。もう大人になる年齢なんだから強くなりなさいって」
「ほーん。まぁお前ふにゃふにゃだもんなー」
ベッドの縁から顔を出して下のゾイドをムスッと睨む。
「そーいうゾイドさんは何でメイドになったんですかー?」
彼女は考え込むように視線を外した。少しして布団を被ってしまった。
「けっ、教えねー」
「ちょっとっ! 人に聞いといてっ!」
「はよ寝ろよー」
わーわーと文句を浴びせたが、結局彼女の布団が払われることは無かった。
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