◆再び告白する翌日
「ごめん、呼んだのに遅れちゃって」
「いえ、お気になさらず」
以前に告白した時と同じ、校舎裏というベタな場所へ進藤さんを呼び出していた。
再び告白するために。
先生との話し合いで時間に少し遅れてしまったけど。
変わらず待っていてくれた事に感謝する。
「…………」
進藤さんが僕の顔をじっと見てくる。
「すごく凛々しい顔になりましたね」
「そう、かな」
「それで、お話ってなんでしょうか?」
「あぁ。それなんだけど」
特に心の準備をする必要はない。
話す内容は決めていた。
海を泳ぐシャチのように素早く、間を置かず告白する。
「進藤さんは全部わかってたんだよね」
殴られて腫れた頬を動かし、そう言った。
進藤さんは全部わかってたんだよね。
僕が橋口達に命令されて告白した事に
だからシャチの話をしたんだ。
シャチに天敵はいない。
単体でも強い存在なのに、チームで狩りをする。
アザラシを食べるために追い込み、遊び半分で追い詰める。
僕はアザラシだ。
クラスという海の中、シャチである橋口達に遊び半分で狩られる存在。
進藤さんはそう指摘するために『シャチが好き』なんて言った。
――――――――――――――――――――――と思ってたんだけど、本当は違う。
僕はシャチだったんだ。
僕こそがシャチだったんだ。
水族館で人間に飼いならされるシャチ。
狭いプールに閉じ込められて。
狭いトイレに閉じ込められて。
してほしい行動をとればご褒美をもらい。
してほしくない行動をとればご褒美をもらえない。
そう躾られたシャチ。
「進藤の裸の写真撮って来い」
「どうやって? 付き合えば撮れるんじゃねーの」
「盗撮でもいいし、無理やりやったのでもいいぞ」
「出来なかったらわかってるよな? な!?」
暴力のない日常というご褒美を与えられ。
そう命令されたシャチ。
進藤さんはそれを指摘したかったのかもしれない。
そして。
昨日見つけた一つの記事。
ティリクムという名前のシャチが起こした事件。
水族館で飼育されている間に三度、人を襲った。
プール内を引きずり回し、殴打し、噛み沈めた。
そんな内容だった。
進藤さんはこれを伝えたかったんじゃないか。
僕に言いたかったんじゃないか。
大人しく調教されているシャチ。
大人しく調教されている僕。
そんなシャチでも、反撃するんだと。
そんな僕でも、反抗できるんだと。
「嫌だ」「やりたくない」「僕に構うな」
鋭い牙も、強いヒレも、大きな身体も、跳ねる尻尾もない僕でも。
蹴り上げられる足がある。
振りほどける腕がある。
殴り返せる拳がある。
僕は、反撃した。
僕は反抗した。
思いっきり暴れた。
やられて、やり返して、やられた。
これであいつらの嫌がらせがなくなるとは思わない。
明日にはもっと酷い暴力を受けるかもしれない
でも、前と同じようにはならない
今の僕は、シャチみたいに出来る事を知っている。
人みたいに戦う事を知っている
それを教えるために、シャチの話をしたんじゃないの?
進藤さんは全部わかっていて。
『シャチが好き』なんて言ったんじゃないの?
――――と、いう話をしたかったんだけど。
「さて、何の話でしょう?」
誤魔化してるのか。
本当にわからないのか。
イタズラっぽく笑う進藤さんを前には何も続けられず。
「それよりお顔に出来たアザ、シャチみたいな形になってますよ」
「とってもかっこいいです」
どこまでも彼女は彼女で。
彼女は彼女だ。
僕の顔のシャチに触れようと、手を伸ばす進藤さん。
「……ありがとう」
その手を優しく握る。
「ありがとう」
色んな意味を込めて、お礼を言う。
今までのは僕の想像で妄想。
考えすぎの深読みだ。
彼女はただ、シャチの話をしたかっただけ。
だって彼女は。
「進藤さんは本当にシャチが好きなんだね」
「はい。大好きです」
そう。
だって彼女は。
進藤鈴音は――。
進藤鈴音はシャチが好き 空家秋也 @akiya11akiya
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