◆告白した日
「私、シャチが好きなんです」
「ですから、ごめんなさい」
放課後の校舎裏というベタな場所でした僕――藤森 友和――の告白は、そんな言葉で断られてしまった。
「それではまた明日」
「い、いや! いやいや……あ、あ、あの!」
申し訳なさげだけど普通に帰ろうとする彼女――進藤 鈴音さん――を呼び止める。
何か他に用が?
な表情で首を軽く曲げる進藤さん。
この告白は、僕の未来が決まる告白なんだ。
断られるのは予想していたけど。
理由が理由なだけに『はいわかりました』なんてすぐ納得できないし、このまま帰れない。
なんとかしないといけない……。
「……シャチってあのシャチ?」
「そのシャチだと思います」
「海にいる、あの白と黒の?」
「海にいる白と黒の」
「顔にある白の模様のところに目があると思われがちな、あのシャチです」
「あそこに眼があるんじゃないの?」
「白の部分はアイパッチと呼ばれていますが、実際は違います」
「個人差はもちろんありがますが」
「ほとんどのシャチはそのアイパッチと黒模様の境目にあるんですよ」
「そ、そうなんだ……」
「漢字もすごくかっこよくて強くて納得の出来栄え」
「海に暮らす存在で『魚』、そして陸で暮らす『虎』で『鯱』」
「異なった場所の動物をかけあわせるセンスに脱帽です」
「名づけた人は歴史に名前を残すべきでした」
「他にも武器である『戟』を使った『逆戟(さかまた)』」
「英語では『キラーホエール』と言って他にも――」
「なるほど、わかった、ありがとう」
強い相づちで強引に話を打ち切る。
……進藤さんってこんな人だったのか。
同じクラスだし、天然っぽいのは知ってたけど。
こういう人っていうのは……。
「他に報告とか、連絡とか、ご相談は?」
「あ、あー、うん。ない、かな……」
「そうですか」
「ではまた明日、藤森さん」
「うん……また明日……」
何事もなかったように。
実際、彼女には僕の告白など何事もなかったのだろう。
横を通り過ぎ、振り返る事なく、スマホを取り出すわけでもなく。
校舎裏から表へと歩いていく。
今度は僕も呼び止めず。
その小さく細い背中を見送る――。
「……」
いや、見つめる事しか出来なかった。
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