サキュヴァンドリームズ
Raom
第1話 「悪魔対面」
「この高校には悪魔がいる」
それを提言したのは、端っこの端っこにある視聴覚室で行われた儀式のメンバー。
不定期に活動していた、やばいやつらの巣窟。
「オカルト部」の存在だった。
その部では、オカルト全般を扱う部活だった。
というか、何かしらのオタクの集まりのような魔境だったのは間違いない。
その部では、悪魔を召喚する儀式が恒例であった。
本当にバカみたいな話だ。くだらなすぎる。
しかし、それがついに成功した日があったらしい。
けど誰もそれをあてにしなかったし、もはや嘲笑するような雰囲気が学校の中でもあった。
もちろん、僕は一切信じてない。
自分はそもそもオカルトが大嫌いだし、ちょっとしたスピリチュアルなことも信用ならない。結局信じられるのは自分だけだ。
「悪魔がこの世のどこかに解き放たれた」
その噂を聞いた時はうんざりだった。
部員以外が、それをバカにして笑い話にしてたけど、僕は逆に怒りのようなものを感じた。
何が悪魔だ。そんなもん召喚して何がしたいんだ。
現実から目を瞑るからそんなことするんだ。
だから信じない。信じたくなかったのに...。
聖星 叶(せいや かなた)は、フィクションというやつが嫌いだった。ああだったらいいなという夢には一切興味がなく、全ては現実の結果のみだと信じていた。
結果という事実のみが、自分にとって一番の価値であり変わりようのない真だった。
よく面白みがないと言われるが飛んだ誤解だ。
僕は等身大の夢を叶え続けてるだけだ。
現実でありえないことはしない。
常に冷静で夢みがちでもない。
ただ結果だけを残す。それが僕のルールであった。
その真面目さから僕は先生から生徒会の役員に抜擢された。
常にテストの順位を上位でキープし、全ての行事は真面目に取り組み、先生方からも非常に評判だった。
自分でも言うが、もはやお手本のような優等生だった。
しかし、生徒からは邪険に扱われていた。
僕の真面目さが気に食わないやつが多くいたのである。
逆に、生徒からも先生からも絶対的な信頼を置かれている人がいた。
薔薇園 花恋(はなぞの かれん) は、去年転校してきた同級生だった。
彼女はあらゆる分野で活躍し、その才色兼備で可憐な姿には、誰もが溜め息が出るようだった。
まさに夢のような人。しかし、違う。
これは夢じゃない現実である。
それに僕は、ものすごく感動を覚えた。
多くのフィクションの物語が溢れる世の中で、常に現実で結果を残し続ける彼女は、どこぞやの物語の人物より魅力的に見えてしまった。
そして、彼女はこの高校の生徒会長でもあった。
二年生の途中から転校してきた状況にも関わらずに、あらゆる実績や偉業によって誰もが認める人材になり、生徒会長選挙にも見事打ち勝ったのである。
もはや尊敬以外なにものでなかった。
この結果が全てを物語ってる彼女にどう勝とうというのか。
今思うと、絶対に期待を裏切らない彼女を少しながらも、崇拝に近いものがあったのかもしれない。
だからこそ、あのことが気に食わなかったのだ。
あの日は、新生徒会が発足してすぐに開かれた会議のことだった。
この時は、僕と薔薇園さんのたったの二人だけだった。
なぜ二人だったのかというと、あまりの敷居の高さに誰も入ってくれなかったからだ。
結果だけを求めてつまらないと言われている僕に加え、学校の中で一番人気と言われている薔薇園さんの存在がデカすぎるあまりに誰も手を挙げてくれなかったのだ。
だが僕は一ミリも気にしてなかった。
僕たちだけでも、いい結果を残せると確信してたからだ。
新生徒会が発足して間もない頃に、僕は非公認で勝手に活動をしているオカルト部を廃部にしようと持ちかけた。
個人の意見だと言われるかもしれないが、実際にはあいつらには多くの苦情が寄せられていた。
グランドに、大層なミステリーサークルを作る。
屋上に勝手に入り、何かを呼ぶ会をする。
都市伝説を確かめるために、無断で夜の学校に侵入する...
もう上げたらキリがない。
とにかく勝手な行動が多すぎたんだ。
それで、学校の先生や生徒にも迷惑をかけていた。
何より、その活動について僕は一種の恐怖を覚えた。
何を信じてそんな意味不明なことをするんだろうと。
何を信じようが、他の人を巻き込んだらダメだろ。
ありもしない神秘を追い求めて夢中になってる姿には心底恐怖だった。
廃部にする提案は、半ば強引だったかもしれない。
でも僕はこれを遂行しなければ、自分のポリシーに違反する。
しかし、会長がそれを断固として否定した。
「あんなロマンしかない部活を無くすのは勿体ないじゃない!」
僕は信じられなかった。
彼女はそっち側の人だと思ってなかったからだ。
「勿体ないって...。そもそも部として何も結果を残してないですし...てかあれ非公認ですよ!? さっさと解体しましょうよ。あんなのあって誰得なんですか!」
「そ、それは...とにかく聖星くんはあまりにも現実主義者すぎるわよ! ちょっとは不思議な経験でもしたいじゃない!」
「何言ってるんですか!? そんなの関係ないですよ! だって、実際めっちゃ不気味だし、かなりの苦情が来てるんですよ?」
「それはそうだけど...けどさ、ちょっと変わった青春ってのがあるでしょ!」
おかしい。
薔薇園さんは真面目の中の真面目。生徒会に入る前でも、学校生活で何か問題があれば、すぐ解決していた人だった。
今回の件だってすぐ解決してくれるはずじゃないのか?
なにか無くしちゃいけないことでもあるのか?
「それより生徒会メンバーを集めるのが先じゃない? いくらなんでも二人だけじゃ到底無理だわ」
「何言ってるんですか! 僕たちだけでも十分やれますよ!」
「私たちだけじゃ必ず足りない部分が出てくるわ。それぞれできないことを補ったり、意見だって多いに越したことがない。今すぐにでもメンバーを集めないと...」
「でも誰も手を挙げてくれないんですよ。それに推薦した子も全員辞退したじゃないですか」
「それは聖星くんが厳しくするからよ。私に黙って、事前に能力テストをさせたそうじゃない...。確かに学力も大事だけど、その他のことだって必要なのよ? 判断力や決断力、その時の臨機応変な行動力とか...」
「そんなのおまけでしかないです。最終的に結果を出さなければダメなんです。僕はとにかく結果を重視します」
「それは、聖星くんの意見だよ。全員が同じように考えてるわけじゃないの。確かに結果は大事だけど、それに至るまでの過程が大事というか...」
確かにそうかもしれない。
しかし、いくらやる気があろうが結果を残さない人がメンバーにいちゃだめだ。
いくら可能性があろうが...僕は。
「聖星くんって夢はないの?」
「なんですか急に」
「私はね、いーっぱい夢があるの。例えば...東京のタワマンの最上階に住むとかー、海が綺麗なところの近くに別荘を持つとかー、牧場から美味しい牛乳が一生届くとかー、宇宙人にも会ってみたいかも! とにかく、叶ったら幸せだなーって夢を考えるのが好きなの」
「なんですかそれ...。必ず叶うか怪しい夢じゃないですか。そんなの追っても疲れるだけですよ。僕は常に等身大の...」
「あー!! もうそれ聞き飽きたから! 私はもっと自由で夢いっぱいなことをしたいの! だから私は生徒会長になったんだよ?」
自由で夢がいっぱい?
フィクションだけでしかない夢のために頑張るって?
「会長はもっと現実的に考えるべきですよ! 実際、この学校には多くの問題が残ってます。それを中途半端な夢のために捧げたらみんなが可哀想ですよ!」
「中途半端なんかじゃないよ。私には叶えたいことがいっぱいあるの。確かに全てが良い結果にはならないかもだけど...その過程が楽しいっていうかさ」
「じゃあ、楽しそうだからって理由でオカルト部を廃部にしない気なんですか? それってあまりにも楽観視しすぎでは...だって悪魔の召喚とかやってるヤバ連中ですよ? 確かに側から見れば面白いかもですが...いつ問題を起こすかわからないじゃないですか!?」
「うーん、それはそうなんだけどね。けどあの子達ってすごい優秀なのよ? だってオカルト部のPR動画を観たことある?」
「あの胡散臭い動画ですか? 確かに編集はすごい凝ってましたけど、内容自体は相当マニアックでしたよね。途中専門的すぎて、わからんかったですよ」
「けど、一年生からはものすごい評判は良かった。あまりにもぶっ飛んだ内容でびっくりしちゃった。ははっ、今思うとほんと笑える」
薔薇園さんってもっと真面目な人だと思ってたのに...。
僕は少し勘違いしていたのかもしれない。
「聖星くんってフィクションが嫌いなんでしょ? まあ、すごく真面目だもんね。だからね...つまんない」
「つまらない?」
「そう、つまらない。だってまだ高校生だよ? もっといっぱい夢があっていいと思うの。例えば...サキュバスに会って実際に付き合っちゃうとか! それもヴァンパイヤのハーフの子ね!」
「なんすか、その中学生の思春期みたいな例は。てかハーフって更にハードル上げてません? あーもう嫌ですよ。僕は現実的なことしか信じないんですよ」
「本当にいたらどうするの?」
「いるわけないでしょうが。さっきから会長、変なとこで盛り上がってません? 会議の続きを...」
「ダメだよ。この高校生活という貴重な時期を、ただ静かに真面目に過ごすなんて勿体無い」
「だからってどうでもいい話は...」
「じゃあこれを見ても何か言えるの?」
彼女は急に制服の上のワイシャツをたくしあげた。
何をしている!?
ちょっと、お腹見えるって...って、なんだこの模様。
それに、真っ黒な翼が生え始めてるんですけど!?
「この翼と淫紋を見てもなんとも思わない?」
僕はそれを見て何を考えただろうか。
「会長。そんなコスプレは学校でやらない方がいいですよ」
「こっちは真面目なんだけど?」
これが僕が初めて悪魔と対面した瞬間だった。
サキュヴァンドリームズ Raom @Raom
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サキュヴァンドリームズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます