繋がる未来のその先に

シンナ

第0話

高い天井と果てしなく続く書棚。静謐な空気に包まれた大図書館の中を、赤髪の少女が一人、歩いていた。


手の指先が、無数の背表紙をなぞるように滑る。そして、彼女の目が一冊の本に留まる。


何の装飾もないその本は、数え切れない蔵書の中で目立たないはずだった。それでも、彼女の視線はなぜかその背表紙に釘付けになる。


彼女はそっと本を取り出し、埃を払うように撫でてから表紙を開いた。


最初のページに刻まれた文字。

「繋がる未来のその先に――スピロ」


彼女の眉がわずかに動く。だが、深い思索に耽る間もなく、ページの向こうから風が吹き抜けたような感覚が彼女を包み込む。静かなはずの館内に、かすかな優しい笑い声が響いた気がした。


彼女はゆっくりと続きを読み進める。その瞬間、ただの文字列だったはずの物語が、鮮やかに色づいて心を満たしていく。剣の煌めき、涙をこらえる顔、長い旅路の中で繋がれる命――。


小さな吐息を漏らしながら、少女は本を抱きしめるように膝の上に置いた。そして再び、ページをめくり始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る