ヒロインの子
ひよっと丸
第1話 そんなことに興味はなかった
カルが産まれたのは王都郊外の修道院だった。
母は元男爵令嬢
カルは父親の名前を知らない。
天真爛漫を地で行く母は、修道院でも鼻歌なんぞを歌って作業をしていた。
だから当然鼻つまみものだ。
カルが5歳になった年、母が突然言った。
「やっぱりぃ、カルちゃんはマーカス様の子どもだと思うの髪色そっくりだもの」
認知してもらう。と言い出して、幼いカルを連れて小さな荷物を持ってマーカスの住む領地に旅立った。
修道の旅なら無一文で行ける。
そんな適当な旅だ。
幼いカルと、もと男爵令嬢の母とでは、なかなか大変な旅になった。
だがこの母、自分の顔の良さを知っている。
「だって、もと乙女ゲームのヒロインだもの」
それを聞いた途端、カルは合点がいった。
ピンクの髪なんて奇抜すぎと思っていたのだ。
カルにも何となく記憶はあった。
なんの乙女ゲームか知らないが、母は逆ハーエンドをめざして達成できなかったようだ。
だから父親のしれない受けを産んだ。
ようやく父親だと思われるマーカスの住む領地にたどり着いた時、季節は冬になっていた。
マーカスが納める領地は辺境の地。
雪深く、魔素が多いから魔獣もいる。
マーカスは魔獣狩りに忙しく、母の相手なんぞしている暇はなかった。
「春まで待つわぁ」
鑑定の魔導具を取り寄せるのは雪解けしないと無理だと言われた。
幼いカル母と一緒に辺境の地の修道院に住むことになった。
もう歩かなくていいのは救いだった。擦り切れたブーツはもう使い物にならない。
しかし、新しく渡されたのはサンダル。
修道士の正しい履物だから仕方がない。
極寒の地ではあるが、冬の間は街全体が地下に移動するからそれほど寒くはなかった。
ただ、修道院だけは外に建てられていて、活動する時は寒かった。
辺境の地の子どもたちは、カルを遠巻きに見るだけだった。
何しろ修道士の格好をしている。だがピンク色の髪をした修道女が連れてきて、領主の息子だと言うのだ。こういった話はよくあるので、辺境の地の子どもたちはよそ者を注視した。だが、おかしな真似をしたら、それは神への冒涜である。
幼いカルは黙々と日々作業をする。
元から友だちなんていなかったから、いまさら寂しいなんて思わなかった。
雪深くなったある日、母を起こしに行ったらベッドに居ない。珍しく早起きをしたものだ。なんて思いつつ地下の 部屋から地上の修道院に行くと、母がいた。
「おはよう」
声をかけたが、返事がない。
座っている方向も何やら変だ。
幼いカルは緊張しながら母に近づいた。
「母さん?」
返事は無い。
恐る恐る手を伸ばせば、冷たい。
自慢のピンク色した髪の毛がふわりと広がった。
「うそ、だろ」
母は修道院の窓から満月を眺めていたのだろう。
そうしていつの間にかに眠ってしまった。
つまり凍死だ。
母の遺体は安置所で冬を越すのだと言われた。
土が凍っていて埋められないらしい。
母が死んでカルの心は軽くなった。
元々父親なんて興味がなかった。
逆ハーエンドを狙った元ヒロインが母親なんて最悪だ。
春になったらここを出ていこう。
幼いカルは心に決めた。
日差しが柔らかくなった頃、領主マーカスが修道院にやってきた。
春待ちの支度のためだった。
次の更新予定
2025年1月10日 21:00
ヒロインの子 ひよっと丸 @hiyottomaru
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