魔女学校の落ちこぼれマギーは

竹神チエ

ぼっきりボーボーは暖炉の薪になった

 魔女学校に通うマギーは十三歳の女の子だ。


 いつもは寮生活のマギーだが、冬休みに入り、里帰り中。家族との時間を過ごしてる。


 マギーの家族は全員赤毛にそばかすだ。パパ、ママ。それに双子の弟と三つ子の弟。さらには今ママのお腹の中にも一人いる。マギーは全員のおねえちゃんだ。


 そんなたくさんのきょうだいがいる大家族マギーだが、パパとママ、たくさんいる弟たちの誰一人、魔力を持っていない。もちろんマギーだってちっともない。


 それでも魔女見習いなのは、マチルダおばさんのおせっかいのせいで特別入学してしまったからだ。だからマギーは学校では落ちこぼれ。友だちだって一人もいない。


 そのことは家族全員知っている。マギーは魔法が使えないって。だからこの冬、マギーが箒に乗って帰って来ると、びっくり仰天して大騒ぎした。


「マギー、本当にマギーなの⁉」とママ。

「こりゃ一体何事だ!」とパパ。

「おねえちゃんスゴイ‼」と弟たち。雪が積もる庭をキャッキャと駆けまわる。


 マギーは得意満面だ。暖炉に向かって杖をひと振り。ボッと点火すると、さらに家族はびっくり仰天。マギーの低い鼻もぐぐんっと高々になる。


 どうしてこうも急成長したかって? 

 それはマチルダおばさんの教育方法のおかげだ——と、パパとママは感激しているが、本当はマチルダおばさんがプレゼントしてくれた不思議な箒のおかげだ。


 マギーにだけ聞こえる声で、マギーにだけ力を貸してくれる、とっても頼りになる特別な箒なのだ。


 ボーボーと名付けたこの箒は、マギーの魔女学校生活には欠かせない。


 ある時はマギーを乗せて空を飛び、ある時は杖に変身して雪を降らせ、ある時は靴にだって変身してマギーのピンチを救ってくれた。とっても大事な相棒だ。


 さて、そのボーボーなのだが……。


 マギーが暖炉の前で温かいココアを飲んでいると、どったーんっ、と派手な音が窓の向こうから聞こえてきた。何事かと庭に出てみるマギー。すると全身雪まみれの弟たちが泣きべそで並んでいる。


「おねーたん、ごめん」

「ごめんなさいです」

「おこらないで」

「わざとじゃないの」

「ぼくたちだってとびたくて」


 双子と三つ子、合わせて五人の弟たち。

 彼らが恐る恐る見せてきたものは……。


「ボーボー‼」


 柄がボッキリ折れたマギーの箒だ。


 弟たちが説明する。


 自分たちもマギーのように空を飛びたくて箒にまたがった。でも飛べない。もしかしたら高いところから飛び降りたら空を飛べるかも。木箱を積み上げ、てっぺんからジャンプした。地面が雪ですべった。痛かった。腹が立ち、箒を振り回して木箱を叩いた。そうしたら、折れた。ボッキリと。


「やすものだったの?」

「もろい」

「すぐおれた」

「ボッキボキ」

「あたらしーの、かってもらって?」


 マギーの絶望たるや。


 終わりだ。マギーの魔女生活はボーボーがいたからこそ成り立つ。

 それに落ちこぼれマギーの唯一の話し相手がボーボーだった。

 友を失い、マギーは弟たちが耳を塞いで跳びあがるほどの大きな声で泣いた。

 それからショックで気絶した。


 目を覚ますと暖炉の前のチェアに寝かされていた。パチパチと薪がはぜる音がする。ママが「おいしいシチューがあるわよ」と労わってくれたがマギーの哀しみは癒えない。


「ボーボー……、わたしの箒は?」


 きょろきょろとあたりを見回すマギー。柄の部分に添え木をして包帯でぐるぐる巻きにすれば、なんとかなるかもしれない。でも近くでうろちょろしていた五人の弟たちが、マギーの言葉に暖炉を指差して言った。


「おれたホウキはあの中だよ。とってもよくもえてるんだ!」


 マギーは再び気絶した。次目覚めた時にはすべてが悪夢だったとわかり安心した——かったが、ぜんぜん現実でびっくり仰天した。


「わたしの箒! どうして燃やしちゃったの‼」


 パパとママに文句を言ったが、二人とも「新しい箒を買ってあげるから」と言って事の重大さをわかってくれない。


 マギーは地団太を踏んで怒り、悔し泣きし、怒鳴り散らすと絶望し涙にくれた。そうして冬休みが終わり、いよいよ学校に戻る日が来た。


「マギー、はいこれ」

「マチルダおばさんに連絡して同じメーカーの箒を送ってもらったよ」


 両親から新品の箒を受け取るマギー。ちっともうれしくない。


 投げやりな気持ちで箒にまたがる。どうせ飛べやしない。ふんっ、と不機嫌に鼻を鳴らし、適当にジャンプする。


 何も起こらな——ええっ‼


 どっぴゅーんっ、と急上昇。

 わあ、と弟たちの歓声が聞こえるが、その姿はずいぶん下にある。


「ど、どどど、どういうことっ。わたし、飛べるようになったの⁉」

「あったり前だろ、主君‼」

「ええっ、ボーボー⁉」


 箒がキュイーンっと宙返り、マギーも一緒にくるりと空を周る。


「我がいるかぎり主君は最強の魔女なのだ、泣いたりする必要ないぞ!」

「で、でもボーボーは燃えたんじゃ……」

「火がなんだってんだ。我は灰になろうと主君のピンチとあらば箒に宿り復活するのだ‼」


 へいへーいっとアクロバット飛行を繰り返すボーボー。振り落とされないよう必死にしがみつくマギー。あっという間に魔女学校に到着する。


「さあ主君、我と共に最強の魔女王を目指そう‼」


 何が何だかわからないけれど。

 落ちこぼれ魔女見習いの相棒は、どうやら不死身の箒(?)のようだ。

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