メインキャラは苦手なので後ろでサポートします
渡辺よしみ
第1話
異世界に転生したアーサーは、自らが「勇者」として召喚されたことを告げられた。しかし、剣も魔法も全く才能がない自分が、どうして勇者なのかと困惑する。王国の重臣たちも、アーサーの平凡な外見や頼りなさげな態度を見て「勇者失格」と嘲笑したが、アーサーは動じなかった。「戦えなくても、俺にできることはあるはずだ」と心に決めた彼は、旅の仲間を支える道を選んだ。
そんなアーサーが初めて出会ったのが、剣士アルトだった。アルトは「王国最強の剣士」と呼ばれ、比類なき剣技で名を馳せていたが、その才能が仇となり、彼は常に孤独だった。圧倒的な実力ゆえに誰も彼の実力についていけず、無茶な戦い方をする彼は仲間と衝突し続けてきた。アーサーが挨拶をすると、アルトは冷たい目で睨みつけ、「お前みたいな役立たずに何ができる?」と吐き捨てた。それでもアーサーは動じず、微笑みながら答えた。「君が戦える限り、俺はその後ろで支えるよ。それが俺の役目だから。」
旅の初日から、アルトの戦いぶりは目を見張るものがあった。剣の一振りで強大な魔物を両断し、仲間たちを守り抜く姿に、誰もが感嘆の声を上げた。しかしアーサーは、その裏でアルトの剣が傷つき、彼自身が無数の小さな傷を負っていることに気づいていた。戦闘後、アーサーはアルトに剣の手入れを申し出たが、「俺の剣に触れるな」と冷たく拒絶される。それでもアーサーは諦めず、剣士の装備や戦闘スタイルについて研究し始める。「アルトが戦いやすくなる方法を見つけてやる」と決意し、観察と準備を怠らなかった。
旅が進むにつれ、アーサーのサポートは次第に効果を発揮するようになる。例えば、剣が傷みにくくなる特製の剣油を用意したり、魔物の弱点を瞬時に見抜いて戦闘中にアルトへ的確なアドバイスを送るようになった。最初は無視していたアルトも、アーサーの言葉通りに動けば戦闘が効率的に進むことに気づき、次第に彼を信頼するようになった。
アルトの孤独な過去も旅の中で明らかになっていく。幼い頃から剣の才能を見出されたアルトは、周囲の期待を一身に背負って育った。しかし、戦うことばかり求められ、人としての彼を見てくれる者は誰もいなかった。その結果、自分の価値は剣技だけだと信じ込むようになり、他人を拒絶するようになった。そんな彼にアーサーは静かに語りかける。「君が強いのは、剣の技術だけじゃない。君がそこにいるだけで、仲間は安心できるんだよ。」
ある日、彼らは巨大な魔物に囲まれ、全滅の危機に直面する。アルトが単独で突っ込もうとするのを、アーサーは「待て!」と制止した。そして冷静に状況を分析し、「アルト、正面から奴らの群れを裂いてくれ。その間に俺たちが背後をカバーする」と指示を出した。アルトは初めて全面的にアーサーの言葉を信じ、その通りに動いた。その結果、パーティは無傷で勝利を収め、仲間たちはアーサーを「俺たちの頭脳だ」と称賛する。アルトも焚火の前でぽつりと呟いた。「お前の指示がなかったら、俺はここにいなかったかもしれない。」
それからというもの、二人は互いに欠かせない存在となる。アルトはアーサーの分析と支援を頼り、アーサーはアルトの剣技を信じて旅を続けた。最終決戦を前にアルトはアーサーに向き合い、こう言った。「俺の剣はこれまで誰かのために振るってきたつもりだったが、今はお前のために振りたいと思う。お前がいる限り、俺はどんな敵とも戦える。」
アーサーはその言葉に微笑みながら答えた。「君が前を向いている限り、俺は君の背中を押し続ける。それが俺の役目だ。」
最終決戦で、アーサーの冷静な判断とアルトの圧倒的な剣技は、魔王を討ち果たす鍵となった。二人の連携は、戦場の誰もが驚嘆するほど完璧で、後に語り継がれる伝説となる。それでもアーサーは「俺は勇者なんかじゃない。ただの支援者さ」と笑うのだった。
こうして、戦わない勇者アーサーと、孤高の剣士アルトの物語は、多くの人々の心に刻まれた。彼らの旅は、真の「相棒」として互いを支え合い続ける、長い冒険の始まりだった。
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