メインキャラは苦手なので後ろでサポートします

わたなべよしみ

第1話 転生と勇者失格1

 「そなたは、我が王国が選びし勇者アーサーだ。」


 荘厳な玉座の前で、アーサーは困惑していた。


 豪奢な装飾に囲まれた広間には、煌びやかな鎧を纏った重臣たちが並び、彼を値踏みするような視線を送っている。


 「……勇者、ねえ。」


 アーサーは自分の服を見下ろした。


 異世界に召喚されたその瞬間のまま、くたびれたシャツとジーンズ姿。


 王の前に立つには、あまりにも場違いだった。


 「これが勇者だと?」

 重臣の一人が鼻で笑った。

 「見た目も平凡で、まるで戦士の風格がないではないか。」


 「まったくだ。王国もついに終わりだな。」

 別の男も嘲笑を浮かべる。


 だが、アーサーは彼らの言葉に怯まず、一歩前に出て王に向かって頭を下げた。


 「僕が勇者かどうかは分かりません。でも……与えられた役割があるなら、それを全力で果たしたいと思います。」


 その言葉に、重臣たちは再び嘲笑を上げた。


 しかし、王はじっとアーサーを見つめ、わずかに頷いた。


 「ならば旅立つがよい。そなたの使命は魔王を討つこと——そして、王国に平和をもたらすことだ。」


 王国で出会った剣士——アルト。


 長髪を風に乱し、鋭い目を光らせる彼は、巨大な大剣を背負いながらアーサーを見下ろした。


 「……剣も魔法も使えない?お前、本気で言ってんのか?」


 呆れたように肩をすくめるアルト。


 「こんな頼りない奴が勇者だなんて、この国も終わりだな。」


 アーサーは苦笑しながら答えた。


 「まあ、そう言われると思ったけどさ。」


 それでも、彼の言葉は続く。


 「君みたいに強そうな人がいれば、僕も少しは安心できるんだけどな。」


 しかし、アルトは冷たく言い放つ。


 「俺に頼るな。俺は自分の力で戦う。それに、お前みたいな足手まといがいたら、こっちが危険だ。」


 アルトの冷たい言葉に、アーサーは少し考え込むような顔をしたが、やがて小さく頷いた。


 「分かった。じゃあ僕は君の邪魔をしないようにするよ。君が戦える限り、僕はその後ろで支える。それが僕の役目だと思うんだ。」


 アルトは驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。


 「……勝手にしろ。ただし、俺の足を引っ張るなよ。」


 旅が始まると、アルトの実力はすぐに明らかになった。


 巨大な魔物を前にしても、一切ひるむことなく突進し、大剣を振り下ろして一撃で仕留める。


 その姿に、アーサーは何度も息を呑んだ。


 「すごい……本当に強いんだね。」


 「当然だろ。」


 そっけなく答えるアルト。


 だが、アーサーは気づいていた。


 アルトの剣には無数の傷があり、彼自身も戦いのたびに細かな傷を負っている。


 アーサーは静かに言った。


 「剣、手入れしておくよ。」


 すると、アルトは鋭い目で彼を睨んだ。


 「触るな。俺の剣だ。」


 それでも、アーサーは諦めなかった。


 戦闘中の彼の動きを観察し、剣士の装備について研究を始めた。


 ある日、アーサーが特製の剣油を用意し、アルトに差し出した。


 「これ、試してみて。君の剣が少しでも長持ちするようにね。」


 アルトは訝しげに剣油を手に取り、ためしに剣に塗ってみる。


 そして、一振りした瞬間——


 「……お前が作ったのか?これ、すげえ剣の滑りが良くなってるじゃねえか。」


 アーサーは微笑みながら頷いた。


 「君が戦える限り、僕はその後ろで支える。それが僕の役目だから。」


 ある日、アーサーの前に巨大な魔物の群れが現れた。


 アルトは単独で突っ込もうとしたが、アーサーがその腕を掴んで制止した。


 「待って!無茶をするな。」


 アーサーは冷静に戦場を見渡しながら言った。


 「君が群れの正面を裂いてくれ。その間に僕たちが側面を突く。全員で動けば、効率よく戦えるはずだ。」


 アルトは少し眉をひそめたが、やがて頷いた。


 「……分かった。お前の言う通りにやってみる。」


 結果、全員が無傷で勝利を収めた。


 戦いの後、アルトは焚火を見つめながらぽつりと呟いた。


 「お前の指示がなかったら、俺はここにいなかったかもしれない。」


 アーサーは静かに微笑んだ。


 「君が信じてくれたから、僕も役目を果たせたんだよ。」


 夜空の下、焚火の灯りに照らされながら、アルトは静かに言った。


 「俺の剣は、これまでただ戦うためだけに振ってきた。でも、今は違う。」


 彼は大剣を見つめ、ゆっくりと続けた。


 「この剣をお前と共に振りたいと思う。」


 アーサーは照れくさそうに笑いながら答えた。


 「君が前を向いている限り、僕はその背中を支え続ける。」


 「それが僕の役目だから。」


 こうして、戦わない勇者と孤高の剣士の旅は続く。


 彼らの旅路はまだ始まったばかりだった——。

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