中編

二ヶ月後。


あっという間に二ヶ月が過ぎた。

動画のカウントダウンは、アレから1日も欠かさず続いた。

文字通り、毎日続いた。


そして、いよいよ福袋販売当日。

冒険者ギルドが開くのは、午前八時である。

通常なら、依頼人とそれを受ける冒険者たちがポツポツと現れる時間だ。

お祭りの日でもそれは変わらなかった。

例年なら、道を行き交う人がいつもより多いくらい。

そんな時間。


そんな時間に、その行列は出来ていた。

だいたい、20人から30人ほどの行列であった。

行列の整理を冒険者ギルドのスタッフがしている。

そのスタッフの1人に、通行人が話しかけた。


「これ、なんの行列ですか?」


今まで見たことの無い行列である。

だからこその質問に、スタッフは快く答えた。


「冒険者の方たちに福袋を販売するんですよ」


「はあ?」


通行人は福袋の意味がよくわからなくて、曖昧に返して立ち去る。

とりあえず、冒険者向けのイベントなら自分は関係ないや、と考えたのである。

また別の通行人が、やってきて行列について質問した。

同じ答えが返される。

しかし、この通行人はさらに質問をした。


「えっと、あの建物の影、路地裏に積み重なってる方たちは、なんですか?」


通行人は路地裏を指さして、聞いた。

何故かケツにぶっとい物が刺さっているようにも見える。


スタッフは、ニコニコしながら答えた。


「ルール違反者です!」


そんなギルド前の様子は、ギルドが設置した定点カメラで配信されていた。

なお、福袋購入の様子は撮影しても良いということで、有名無名関係なく、並んでる冒険者たちもこの様子を配信していた。


その各動画には、コメントが書き込まれ、流れていくのだった。


《真夜中からスタンバってます》

《wktk》

《並ぶのはダメだけど、徹夜で動画見るのはおkな件》

《あそこに積まれてるのって》

《ヒント:ルール違反者》

《徹夜組か》

《徹夜で並んだのか》

《あれ程ダメだと言われてたのに》

《結構並んでるのね》

《なんか思ったより並んでる》

《( ;゜д)ザワ(;゜д゜;)ザワ(д゜; )》

《みんなきちんと並んでて草》

《でも、この調子だとちょっと売れ残り出そう?》

《出そうだな》

《売れ残ったらどうするんだろう?》

《冒険者ギルドのスタッフが買い取るとか?》

《ギルマスが買い取るんじゃね?》

《廃棄するには惜しいだろ》


列に並びながら、配信する者もいた。

有名配信者である。


「えー、そんなわけで冒険者ギルドの福袋!

買いに来ちゃいましたー!

あとで開封動画も投稿するからよろしくねー」


《楽しみ》

《けっこう並んでる》

《買えるかな?》

《どれ買うの??》

《ギルド横の路地裏で積み重なってるの、なに??》

《ルール違反者だってー》

《ケツにブツが刺さっとる》

《徹夜で並んだのか》

《ギルドの定点カメラ、過去映像見てきなよ悲鳴が入ってるから》

《マジか》

《ギルド、容赦ないな》

《とりあえず微かに動いてはいるから、生きてはいるんだな》

《路地裏ならとりあえず、邪魔にならないもんなー》


「あ、そろそろ販売開始時間ですねー」


混乱を避けるためもあって、数人ずつギルドの建物内へと案内されていく。

この配信者は、最後尾に近いところに並んでいるので、先頭にいるもの達の様子を撮影することができた。


《wktk》

《あ、出てきた》

《次の人達が入ってく》

《あの人たち、ここで開けるのかな?》

《どの福袋買ったんだろー?》

《遠目だとパッと見は全部同じデザインに見えるな》

《あ!あの人!出てきた中にいる人!動画撮ってない??》

《ほんとだ!》

《生配信してるかな?》

《いた!!》

《生配信みっけた!》

《たぶん、あの人だ!》

《ギルド入り口だと、邪魔になるから近くの広場行って開けるみたいだな》

《ギルド内の酒場で開けるとか出来ないのかな?》

《出来るっぽいけど、まだ誰も酒場にいない》

《最初に買った人は、【駆け出し向け】購入者だな》


その時だった。

配信者のカメラもだが、冒険者ギルドの定点カメラもそのざわめき、いや、歓声を拾った。


《って、ん?》

《なんだなんだ??》

《もしかして、当たりが出たとか??》

《え、マジで当たり入ってんの??》


戸惑う視聴者たちをよそに、カメラはその様子をとらえ、音声を拾っている。


「ほんとだ!!!!

下級ポーションが10本も入ってる!!

マヒ消しと毒消しも!!助かる!

すげぇーーーー!!

めっちゃ助かる!!」


どうやら当たりではなかったらしい。

しかし、この喜びようである。

と、今度はなんとギルドの中から叫びが聞こえてきた。


「中級ポーション当たったー!!

やったー!!」


こちらは当たりが出たらしい。

さらにまた別の場所から驚きの声があがる。


「すげぇ!!ガチで中級ポーション12本入ってる!!」


当たりが出た購入者が、高々とそれを袋から出した。

中級ポーションである。

と、今度はギルドから少し離れた場所でやはり歓声が上がった。

そちらでもやはり、中級ポーションが入っていたらしい。


《おおぅ》

《続々と当ててる》

《すげぇ》

《いまのところ、駆け出し向けと中堅~上級者向けが買われてる感じかな?》


「うん、そんな感じかなぁ」


《ちょっと頑張れば手が届く価格だしなぁ》

《でも、大当たりはまだ出ない、か》


そんなコメントが書き込まれた直後だった。

列がどんどん進んで行ったこともあり、その叫びは配信者のすぐ横で上がった。


「じ、上級ポーションだぁぁあ!!」


信じられない、とばかりにその購入者は震える手で、上級ポーションをかかげている。


《うわぁ、マジか》

《ガチで大当たりが入っとる……》


この時、配信者はちらり、と列を振り返った。

他の配信者たちも並び始めていることに気づいた。

話題性があり、同接数に直結するとなったらこのイベントに参加しないわけにはいかないと判断したのだろう。

そうこうしているうちに、有名配信者の番になった。

ギルド内の酒場では、あちこちで歓声に溢れかえっていた。

そんな中、有名配信者は堂々と福袋購入窓口へとすすむ。


《そういえば、どれ買うんだろ?》

《wktk》

《(; ・`д・´)ゴクリンコ》


「【英雄福袋】ください」


有名配信者の言葉に、受付係以外がどよめいた。


おおっ!!


なんなら視線も集まる。


「はい。【英雄福袋】ですね!

こちらパーティでの購入となりますので、ギルドカードを確認させていただきます」


有名配信者がどのパーティに所属しているのか、確認するらしい。

有名配信者は言われた通り、ギルドカードを提示した。

受付係はそれを確認し、背後に用意してある福袋の山の中から【英雄福袋】を持ってきた。

有名配信者が代金の金貨5枚を支払い、それを受け取る。


「すげぇ、金貨5枚をポンっと出しやがった」


「いいなー、俺もいつかはあんなふうに支払いしたい」


「ここで開けないのかな??」


「あ!あれ、ダンジョンとかで配信してる人だ!!」


と、ギルドの建物内で迷惑にならないよう脇にいた冒険者たちが囁きあった。

そんな彼らへ、有名配信者は言葉を投げた。


「今夜にでも、開封動画を生配信するので良かったら見てくださいねー」


なんなら愛想良く、手を振りながら有名配信者は冒険者ギルドを後にした。


《開封動画楽しみ》

《また夜かー》

《開封動画wktk》


有名配信者の動画にも、そんなコメントが書き込まれ、流れていく。

冒険者ギルドを出て、歩きながら有名配信者は視聴者たちへ言う。


「それじゃ、購入生配信はここまで。

また夜に開封動画投稿するから、よろしくねー」


《(*・∀・*)ノ ハーィ》

《88888》

《お疲れ様でーす》

《開封動画、全裸待機してる!》


そうして、この有名配信者の動画は一旦終了した。

しかし、福袋販売はまだまだ続くのだった。


しかし、お昼には福袋目的の冒険者はほぼ落ち着いていた。

ここで、福袋担当の職員は昼休憩に入る。

販売再開は、13時からとなった。


さて、冒険者ギルドが用意した定点カメラ。

そこに張り付いている視聴者達が、コメントで言葉を交わしていた。


《さすがに伝説福袋はでてないかー》

《伝説のは、事前予約必須だろ?》

《買った人いたのかなぁ》

《少なくとも午前中は、取りに来た人いなかったよな》

《まだ、ほかの福袋も残ってるんだよなぁ》

《お?》

《路地裏に積まれてた奴が動いた》

《帰るんだろ》

《痛そうにケツおさえてる》

《そういえば、ギルド内にもカメラ設置してあったな》

《あったあった》

《使われてはいなかったけど》

《なんで設置してあるんだ??》

《外に定点カメラがあるしなぁ》


そうこうしているうちに、13時となった。

同時に、ギルド内に設置されていたカメラが生配信を始める。


《あ、ギルド内のカメラから生配信だ》

《今から??》

《午前中にやれば盛り上がっただろうに》


と、ギルド内カメラによる生配信動画へコメントが書き込まれていく。

福袋の受付窓口には、三人ほど並んでいた。

うち二人は、痛そうにケツを抑えている。


《このケツおさえてるヤツらってwww》

《ルール違反して路地裏に積まれてたヤツらじゃねーかwww》

《ルール違反しても買えるんかwww》


「それじゃあ、今から事前に説明していたように、【伝説福袋】の販売を開始しまーす!!」


ギルドスタッフが、そう声を張り上げた。

ギルド内で福袋の中身をみて、キャッキャしていた者たちがザワつく。


「え、え?!」


「買う人いたんだ」


「まさか、あの三人が??」


《うそやろ》

《なんで、伝説福袋買えるのに、徹夜で並んでたんだよ》

《それは、本人のみぞ知る》

《いいなー、白金貨をぽんっと出せる人生》

《あこがれるよなぁ》

《なんでルール違反しててケツ穴抑えてるやつが、白金貨だせて、俺はだせないんだろうな》

《いうな》


「それでは、ギルドカードの提示をお願いします」


受付担当が一人一人、ギルドカードをチェックする。

それから、残りの金額を三人それぞれに払ってもらい、福袋を渡す。

ちょっとした儀式のような空気に包まれる。


とにかく、こうして、最高額福袋は完売したのだった。

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