第2話

「良く来たなケトス。」

「はっ。」

「大分遅かったようだが、決して気にしていないぞ。忘れられたなんてこれっぽっちも思ってないぞ。」

「それは思っていると公言しています、魔王様。」

「……………」

「……………」

「それで、ミエニカの様子はどうだった?」

「えぇ、まぁ…勇者が思ったより手強かったらしく、少し落ち込んでいただけでした。」

 半分本当だし、大丈夫かな。

「そうか、それは良かった。」

「そうですか?」

「これならミエニカも作戦や情報の大切さを知れるだろう。それに、敗北以上に生物を強くする方法はないからな。」

「…なるほど。」

 無理だろーなー。だってただの恋煩いだし。

「それと、グミアの所へも行ってくれないか?」

「………何故でしょうか?」

 グミアは生物の死体を操るネクロマンサーと呼ばれているが、実際は俺と同じ霊体だ。違いはグミアは死体に入り込んで自由に操り、俺は自分の霊体を使う。

 種族は違うみたいだが、いちいち気にしてたら魔王軍の種族数がおかしくなるため、ある程度似通っていれば統一してしまう。

 だから俺もグミアも一律レイスである。

「グミアも勇者と戦ってから元気がないそうでな。グミアは特にケトスを慕っていただろう?様子見がてら久し振りに二人で食事にでも行くと良い。」

 魔王様はそう言って魔王領で使える金を渡された。

「いただいても?」

「構わぬ、我の代わりに仕事を任せているのだからな。それに、部下のケアとはなかなか疲れるのでな。ケトスが少しでも肩代わりしてくれるならこの程度安いものよ。」

「承知。」

 俺もグミアも食事を取る。俺は魔力に変換するため、グミアも魔力に変換して死体の維持のため。

 かなり重いし思いがけない収益だ。それに、グミアに会えるとなれば気分はウキウキだ。

 だが、なんとなく嫌な予感は拭えないな。

 








 霊波(レイス専用通信網)でグミアに集合場所をフィタ墓地にある唯一のカフェと伝えた。

「いらっしゃーい。」

 顔が半分崩れて脳が液状になって床に滴り落ちているマスターがいつもと変わらず店番をしていた。

「久し振りマスター。」

「おおケトスかぁ!見ない間にちょっと臭くなったんじゃなーい?」

「アハハッ、マスターこそ。」

「「アッハッハッハッハッ!」」

 これぞアンデッド・レイスの久し振りの鉄板ジョーク。このノリ他の種族には伝わらないんだよねぇ。

「いやぁ、にしても何年振りだい?」

「かれこれ……十年?」

「確かグミアちゃんの魔王軍配属祝いが最後だったねぇ。」

「そうそう、あの時……いて。」

 マスターと話していると、横から右手が俺の霊体に当たった。

「おっと、私は皿洗いをしてくるよ。」

「あ、マスター逃げ…いだ、いだだだ!」

 右腕が細かく投げつけられてくる。こんなことするのは一人しか知らない。

「ご、ごめんよ、グミア。久し振りで楽しくなっちゃって。」

 そう言うと、自分の右腕を千切って投げていたグミアの手が止まった。

 しかし顔は膨れに膨れ、どう見ても怒っているようだった。

「ふん!」

 翡翠色のポニーテールを勢い良く揺らし、足取り荒く歩いていった。

「ま、待ってよ、グミア。悪かったって。」

 俺はグミアについていき、グミアが座った隣に立ち、謝罪として頭を下げた。

「そっちから誘っておいて、女の子を待たせるなんてケトス兄は変わってませんね!」

 兄と呼ばれているが別にそういう関係ではない。親しみを込めての愛称だ。

「う、ごめんて………」

「いつもならお洋服とか買って貰いますが今日は私も相談があったんです。なので、それに乗ってくれたらちゃらにしてあげます!」

「おぉ!本当か!?でなんだ!?俺に言ってみろ!」

 俺はグミアの対面に座った。

「じ、実は……この前勇者パーティと戦ったのですが………」

 すでに机の上にあったジュースの中の氷をストローでツンツンつつきながら話し始めた。

「…………」

「その、勇者が、私の………」

「…………………」

「私………アンデッドだから………でも………勇者は………」

 おーけー理解。

「グミアはその勇者のことが好きなんだな。」

「ひゃあ!?」

 グミアが目を見開いて驚いた顔をする。

 もしかして自覚なかったのかな?まぁ、今のはどう見ても恋する乙女だ。ミエニカ同様勇者に惚れたに違いない。

「そんな驚くことか?」

「ち、違うよ!全然!好きとかじゃ………!」

「いやいや、グミアは元々人間だったんだし、人間を好きになるのは当然だろ?

 あれだろ?勇者に会って容姿を人間に近付けようとしてんだろ?」

「え?」

 今度はキョトンとした顔で俺を見つめる。

 ん、違ったかな?

「だって、昔はそんな白粉とか香水とかつけてなかっただろ?通りで可愛くなってると思ったよ。」

「かわっ!?」

 妹分が敵である勇者に恋をし、色気出すとはなかなか複雑だが、あのグミアがここまでするなんて感動したよ。俺は応援するぞ!!!

「待ってろ!俺が勇者に近付いて、好みの女の子を聞き出してやるからな!」

 俺はマスターに適正料の金をぶん投げて、魔王様の待つ城へと向かった。


 ミエニカ………すまねぇ。

同僚と妹分どっちが大事なんて分かりきってるよな?

 だからミエニカ、俺はお前を魔王様にチクるぜ!

 








「えへ、ケトス兄に褒められたぁ。」

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