魔王軍の女連中が最近うっとりしてるんだが……

麝香連理

第1話

「ケトス。」

「なんでございましょうか?魔王様。」

「最近、ミエニカの様子がおかしくないか?」

 ミエニカ…………確か蛇の……蛇の…………なんて種族だったっけ?まぁいいか。

「さあ、会っていないのでなんとも。」

「そうか、なら一度見てみてはくれないか。魔王軍で一番ひ…余裕のあるお前に。」

「……魔王様、隠そうとしたようですが、それはフォローとして役にたっておりません。」

「…………」

「…………」

「まぁ、よろしく頼むよ。

 霊体のケトスであれば壁も国もすり抜けられるであろう。」

 まぁ昔と違って魔王軍もでかくなったし、土地も広がったから魔王様も昔より仕事が増えて移動が大変なんだろうな。

「承知。」







 さぁてさぁて、ミエニカの種族は森に囲まれた洞窟だったか。

 湿気で肌荒れが酷いとミエニカの部下が嘆いていたのを覚えている。ミエニカはどこ吹く風だったが。


「ここら辺かなぁ………」

 下半身が蛇の女性達を浮遊しながら眺めつつ、ミエニカのいる洞窟の最奥に入った。

 お、いたいた。

「ういっす、ミエニカー。」

「っひ!?誰だ!?」

 オレンジの短髪をバサバサと揺らし、周囲を確認する。

「あぁー悪い悪い。」

 俺は自分の体に魔力を回して実体化する。

「なんだ、ケトスかよ。ビビらせやがって。」

 前に他の同僚から聞いたのだが、俺が実体化した時どう見えるかと尋ねたら、白いもやだと答えられた。俺は自分が生前の姿で霊体になったと視覚しているが、他人の見え方は違うらしい。

「ひ、だって、ミエニカも女らしくなったなぁ。」

「っ、馬鹿!そんなんじゃ、ねーよ………」

 …………確かになんか変だな。

 前のミエニカだったら………………

  「ハァ?俺のどこがだよ。舐めてんのか?」

 だったのになぁ。


「んーミエニカ最近なんかあった?」

「あ?最近?なんもねぇーよ。」

 ぶっきらぼうにそっぽを向いた。

「そうかー………あ、そういやミエニカ前に勇者と戦って聞いたけど。」

「んな!?ななな、それがどうした!」

「そんな慌ててどうしたんだ?

 俺は勇者の実力を聞きたいんだけど。」

「あ、あぁそうだな。すまん、取り乱した。

 勇者は剣を使用していた。他にも大楯持ちに魔法使い、僧侶がいた。」

「ん?僧侶?いつも勇者と一緒に挑んでくるのは聖女じゃなかったか?」

「あぁ、いつもはそうだけど、なんか候補者がいなかったらしい。」

「へぇ。」

「それと、魔法使い以外全員男のなかなか珍しいパーティだ。」

「勇者はどうだった?」

「あの剣さばきはなかなかの物だ。

 それに、あの言葉も………」

「………お前、そんな顔出来たんだな。」

「っ!」

「それと、やけに詳しいじゃないか。前情報なしに正面から突っ込むミエニカにしては珍しい。」

「そ、そんなことはどうでも良いだろ!」

「ま、そうだな。しかし聖女じゃないんなら、今回は俺の出番があるかもな。」

 魔王軍入ってこれと言った活躍のない俺には朗報でもある。

「そうだな。あの僧侶、回復が専門と言った感じだったぞ。」

「そうなのか?」

「ああ、部下をけしかけた時も僧侶だけ腰を抜かしていたからな。」

「そりゃ期待できそうだ。

 じゃ、俺は帰るわ。」

「お、おう。次は驚かすなよ。」

「ハハッ、悪かったって。」

 俺は霊体となり、自身にある魔力を完全に消した。


「………ハァー、あいつはなんで………」

 ミエニカが洞窟でとぐろを巻いて愁いの表情を浮かべながらため息を吐く。

 その頬はやけに紅潮していて、どこからどう見ても夢見る乙女の顔だ。しかし、叶わないと悟っている悲しい顔でもある。


 これ以上はプライバシー問題かな。

 俺はそう思ってゆっくりと洞窟を後にした。



「しかし、魔王様にどう話そうかなぁー。

 ありゃ勇者に惚の字だしなぁー。

 人間との禁断の恋を糾弾するべきか、同僚のやっと訪れた春を祝うべきか…………飛んでりゃその内思い付くかなぁ、良い方法。」

 俺は風に吹かれて上手く飛べなかったという言い訳を使うために、わざと力を抜いてゆらゆらと揺れるように飛行した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王軍の女連中が最近うっとりしてるんだが…… 麝香連理 @49894989

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ