ep.33 本音
「ま、申し分ない実力です。合格です!」
イニーさんが近づいてきて言う。
校外調査許可のテストがいつの間に魔対所属許可テストになっていた気がするが、無事合格できたのでよしとする。
「それにしても、ライムくん、魔法の扱いが上手だね。もしかしてマギアータの生徒って普通科でもみんなこんな感じ……?」
ノエル先生が少し引き気味に言う。
ちょうどその時、俺がさっき使ったドアがガチャリと音を立てて開いた。
「いやいや……ライムがずば抜けて魔法の扱い上手いだけっす」
声の主はトルビーだ。
トルビーは合格おめでとう、と言うと続ける。
「普通科の生徒なんて基礎魔法を知ってるくらいですよ。こんな応用も応用のテスト、魔法科の生徒もできないっす」
それを聞いたノエル先生は安堵の息を漏らした後、首を傾げると言った。
「そういえば、そんなに魔法使えるのに普通科なんだね」
「あ〜、俺、魔法使えるようになったのつい最近で……」
よくよく考えると魔法を使えるようになって1ヶ月ちょっとしか経っていない。それを先生に話すと目が点になったように驚いていた。
ちなみにトルビーも無事、合格をもらったようだ。良かった良かった。
2日後、校外調査許可が正式に降りた。
「お疲れ様。これからどうするんだ?」
担任のテケン先生が許可証を差し出しながら言う。
許可証は生徒手帳に収まるサイズで、宿で提示すると宿泊代が無料になるらしい。他にも便利なことがあるそうだ。
さすが中央魔法学校。ブライアでトップレベルに有名なだけある。
トルビーは差し出された許可証を受け取りながら答えた。
「とりあえず南下します。僕の友達のいる集落に行こうと思ってます」
「南か。友達がいるなら安心だ。行ってらっしゃい」
先生に見送られて寮を後にする。
俺は「魔法の収集」、トルビーは「新しい魔法体系を作る」という目標を掲げ、俺たちは中等部2年進級を待たずに学校の外で活動することになった。
はじめに向かったのはもちろん……
「テストご苦労だったな。まぁこれからの方が大変だと思うがね」
そう言って笑う本部長。
ここは魔界対策本部だ。校外調査許可が正式に降りたことを報告しに来た。
「ちょ、本部長……」
トルビーが慌てて言うと、本部長はあははと笑った。
「旅というのは意外と大変なものなんだよ」
トルビーは、魔対所属から今日まで毎日、授業が終わるとすぐにここに来て、俺たちの活動内容について会議を重ねていたらしい。数日前にイオラさんから聞いた。
……隠し事をするならイオラさんにも箝口令敷かなきゃダメだろ。
「おーい、ライム?どうした?」
「はっ!な、なんもないっ」
トルビーに顔を覗き込まれる。
この2週間、俺はずっと考えていた。
俺達が……いや、トルビーが本部長に命じられた活動内容はなんなのか、と。
「旅に出て成長する」
絶対にこれではない。
それに、なんだか危険な匂いがプンプンするのだ。
別に怖いとかじゃないんだけど……
と、トン、キィと、もう聞きなれた音がした。
「何を今更不安がってるです?ボクがテストしてやったじゃないです。ライム、おまえは大丈夫ですっ!」
ペットドアをゆらして机にひょいっと乗ってきたのはイニーさんだ。
不安がっていると思われたようだ。
旅に出るだけなら、不安がる要素はホームシックくらいだと思うんだけどな。
と、このやり取りを聞いたトルビーが口を開いた。
「僕が毎日ここに来てたのはこの話もあるけど別件だよ。主に……」
言いかけたトルビーの言葉を遮るようにドアの開く音がした。
「魔道具のことやな!」
入ってきたのはグルセルだ。
誘拐事件以来、今までが嘘みたいに毎日魔対に居るらしい。差し当たり、トルビーという同業者が仲間になって嬉しいのだろう。
トルビーはグルセルの言葉に同意し、続けた。
「それに、ライムが居なきゃ旅の目的は達成できないよ」
本部長も頷いている。
「……」
ぽつりと漏らしてしまったひとりごとに、トルビーが首を傾げる。
「なんか言った?」
「……なんだよ」
「え……?」
「俺の事連れ回して何する気なんだよ!何が大変なんだ?旅の目的って何?なんで一つも教えてくれないんだよっ!」
「それは……」
そう言い淀むトルビー。
バツの悪そうなその顔は、自分の目に溜まった涙のせいで歪んで見えた。
と、本部長が口を開いた。
「これはライムのためなん……」
「みんなそうだっ!」
本部長の言葉を遮ってしまった。自分でも、もう止められなくなっていた。
「兄ちゃんもそうだった!長い間家を空けるけど元気にしててね、なんて言ってどっかに行った!理由は教えてくれなかった!結局ラズリス姉さんに手紙を見せてもらうまで、
「それはやな……」
グルセルが何かを言いかけたが、聞く気にはなれなかった。
だってどうせ「ライムのため」なんて言うから。
「もういいっ、魔対なんて抜けるっ!」
そう言い放ってから扉を勢いよく開け、吐き捨てるように魔対を出る呪文を唱えた。
いつも通りふらつきながら中央図書館を出た後は、鼻をすすりながら行くあてもなく街を歩いた。
しばらくそうしていると、すれ違いざまに声をかけられた。
「ライムくん?ライムくんだよね?」
「へ……?」
振り向くとそこには、琥珀色の瞳をした少女がいた。
「やっぱり!街で会うなんて奇遇だね。って、もしかして……泣いてた?」
そう言って笑いかけてくるのは、アンバー魔石店の看板娘、同い年のリンさん。
「……」
「どうしたの?」
そう言いながらこちらに歩いてくると、リンさんは俺の肩にぽんと手を置いた。
なんでだろう、リンさんはさっきの話と全く関係ないのに、止まりかけてたのに……涙が止まらなくなってしまった。
ちょうど道の端にあったベンチに促され、座った。
「どうしたか、無理には聞かないけどさ」
そう言いながら隣に座るリンさん。
「話したかったら話してね」
とても暖かい声色で言われ、さらに涙が止まらなくなってしまった。
話せないくらいにしゃくり上げる俺に、リンさんはずっと寄り添ってくれていた。
喋れる程度に泣き止んでから、俺は兄ちゃんやトルビーのことを話した。
「……ごめんね。こんなこと話して……」
俺が言うと、リンさんは頬を膨らませた。
「ごめんじゃなくてありがとうだよ!」
その言葉にハッとして、俺は精一杯笑顔を作った。
「ありがとっ」
「うんっ!」
そう言って笑ったリンさんは、夕日のせいか、すごく輝いて見えた。
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