諏佐刑事の災難
ぜろ
第1話 八月朔日葉桜の使い
先日見た顔だな、というのが第一印象のさえない様子の三木弁護士は、アーサー――もとい、
時間は昼前、朝刊を読んだ
第一発見者は、被害者である
「息子君から硝煙反応は出たのかい? 警視」
「否、出ていない。かといって洗濯をしたりシャワーを浴びられていたらどうしようもないが」
「それもそうだね。で、状況は?」
「夜遊びから帰ってきた息子が朝食をねだろうと部屋を開けたら、母親が銃で死んでいた。出血は少なかったが、こう、変な感じではあったな」
「変?」
「出血が少なすぎた、と言うか。ついでに言うと物取りではないな。印鑑も通帳も貴金属も手を付けられた様子はない」
「――だから俺じゃない、俺じゃない!」
リビングから聞こえた何度目かの叫び声に、アーサーが首を傾げる。
「息子さん?」
「ああ、母親の財布から金をくすねたことがあると近所での聞き込みで分かってな。その延長ではないかと一部の刑事が疑っている」
「俺が帰って来た時はもうおふくろは死んでたんだ! 昨日は一人暮らしの彼女の家に泊まってた! 防犯カメラがあれば分かるはずだ!」
「まあまあ落ち着きなさい少年」
出たぞ、人たらし。現場から出て行ったアーサーの言葉に、まだ幼さの残る顔つきの少年は縋るような目を向ける。それをにっこり笑顔で返して、また言うのだろう、多分、いつもの言葉を。
「腹が減ってちゃ戦はできぬ。お兄さんとラーメンでも食べに行かないかい?」
「……ラーメン苦手です。脂っこくて」
「じゃあチャーハンは?」
「好きです」
「その辺に町中華があったな。あそこに行ってみようか」
まずは胃袋をつかんでから。それがこの探偵のやり口だ。
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