第4話 イクメン夫の裏の顔

そんな春樹だが、お互いの実家に帰省した時や友人ファミリーの前ではおむつ替えにミルクや着替えなど積極的に育児に参加していた。


ぐずっていた時は横抱きや背中を優しく叩いたりしてあやしていた。産科にいた時期もあるので抱っこは手慣れたものだ。海斗や陽菜、そして友人の子どもたちの遊び役も買って出た。



そんな春樹を見て周りは口々に褒める。

「春樹さんは積極的になんでもやってくれて羨ましい。イクメンだね」



本人も嬉しいようで「休みの日は積極的に子どもたちと過ごすようにしています。子どもたちは宝物だし、こうして一緒に遊んでもらえるのも今のうちですからね。幸せです」と模範解答のような素晴らしい返事をする。



七海は、春樹がイクメンと褒め称えられる度に複雑な気持ちを抱いていた。

周りの人から褒められるのは嬉しいが、普段の春樹とのギャップを知っているが故に心が傷んだ。



休みの日でも家にいるのは月に2日ほどだ。

実際の普段の生活は「赤ちゃんは可愛いけど、産科の時は子どもの人数が多くて仮眠の時も常に泣き声して休んだ気にならなかったよ。夜泣きやぐずっている時は勘弁してほしいかな」と近寄ろうとしなかった。




産後のホルモンバランスの変化もあり、海斗が生まれてすぐはよく揉めていた。



生後間もない頃は、海斗の激しい夜泣きで七海は何度も起こされた。寝不足で常に頭はぼうっーとし体は鉛のように重い。それでも腱鞘炎になった手にサポーターを巻き、泣き止まない海斗を抱き上げゆらゆらと揺らしてあやした。それでも泣き止まない時は授乳したり、おむつ替えをする。2時間以上格闘することも頻繁にあった。



翌朝、七海は疲れ切って朝起きることが出来なかった。目を覚ますと寝室に春樹の姿がないため慌ててリビングに向かった



「ごめんね……。昨日の夜、海斗がずっと泣いて寝てなくて……。」



「赤ちゃんはそういうもんだろ。今から弱音吐いてどうするんだよ」


春樹は溜め息をつき、吐き捨てるように呟いた。七海は、一瞬言葉を失ったが込み上げてくる悲しみを抑えきれなかった。



「別に、弱音を言いたかったわけじゃない。ただ、ずっと泣いてて寝なかったって事実を話しているだけ」



「赤ちゃんは今は泣くことしか出来ないからしょうがないだろ。日中もずっと家にいるんだから、泣いている理由を突き止めるとか工夫や努力をしないのか。それが出来なければ泣いているだけに見えるかもしれないけれど、本当は話しかけているかもしれないとかそうやって考え方を変えて育児を楽しもうという努力をしたらどうなの?」



自然と涙がこぼれた。無表情のまま涙だけがぽたぽたとこぼれてくる。春樹の言葉や言い方はとても冷たく七海の心を深く傷つけた。



ある時は、海斗が泣き出した時に七海は料理をしていたため、少しだけ海斗を見るよう春樹に頼んだ。


春樹は、海斗を抱き上げたもののすぐに



「あーダメだ。ママがいいんだねー。ほら、七海のところに行きたがってる」


「最後の授乳っていつ?おなかすいているんじゃない?」


と言ってすぐに七海に返した。また聞いてくるだけで自分では何もやろうとしなかった。まるで最初から諦めているかのようだった。



「ママじゃないと無理って諦めてすぐに私に変わるように言ってくれるけれど、私は昼間誰も変わりがいない中でずっとあやしているの。気が遠くなる時もあるけれど、それでも向き合ってきた。最初から出来たわけじゃなくて向き合ってきた結果なの。簡単に無理とか言わないで」



「そりゃ七海には時間があるからだろう。僕は昼間仕事をしている。どこにそんな時間があるんだよ」



「時間がある、ないじゃなくてすぐに諦めるのが嫌なの。私だって初めての育児で分からないことだらけだし、でも泣いている海斗を放っておくこともできないから、少しでも泣き止むように必死でやっているの」


「そうだよ、それが母親というものだろう。強気で偉そうに言っているけれど、どの母親もやっていることだろう」



七海は、言い返す気も失せていた。涙で言葉が出てこない。欲しかったのは出来ない理由や反論ではない。「ごめんね」や「これからは気を付ける」などの反省や「大変だね」「よく頑張ってるね」という少しでも寄り添う言葉が欲しかったのだ。



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