吸血鬼の、お正月!
崔 梨遙(再)
1話完結:1200字
吸血鬼レオンは少々変わっている。生まれつき血が苦手なのだ。だから、勿論、人の血を吸うなんてことは出来ない。人の血なんか吸ったことがない。母親が人間だったせいか、昼間も外で行動できる。こうなっては、もう吸血鬼じゃない。人間と変わらない。レオンには由貴という最愛の恋人がいる。レオンは洋館で由貴と同棲している。金はある。両親が残した莫大な遺産だ。何故、結婚しないのか? レオンには戸籍も住民票も無いので籍を入れることが出来ないのだ。レオンは困っていたが、幸い由貴は入籍を焦っていなかった。
大晦日の夜、レオンと由貴は初詣のために夜空を飛んでいた。レオンは吸血鬼らしくないが、空を飛べるのだ。由貴を抱きかかえて夜空の散歩をするのは2人の日常だった。由貴は、この夜空の散歩を喜ぶ。
「きゃああああ!」
いきなり悲鳴が聞こえた。
「由貴さん、どうしよう?」
「あの公園から聞こえて来たと思う」
「行ってみる?」
「当たり前でしょ」
「あ、あそこ!」
人気の無い公園で、女性がフードを被った男に迫られている。
「由貴さん、降りるよ!」
「うん、急いで!」
レオンは公園に着陸、由貴から離れて暴漢の前に立ち塞がった。暴漢はナイフを持っている。
「待て! 何をやっているんだ?」
「その女が俺の言うことを聞かないから、実力で俺のものにしようとしているところだ。いいところなんだから邪魔するなよ」
「お嬢さん、この男性はお知り合いですか?」
「いえ、知りません。知らない人です」
「あんたのことなんか知らないって言ってるよ」
「お前、コンビニでバイトしてるじゃねぇか! いつも笑顔で“ありがとうございました”って言ってくれるじゃねぇか!」
「全てのお客様に笑顔で“ありがとうございました”って言ってます!」
「なんでもいいから俺の女になれよ」
「嫌です!」
「ナイフなんかで脅しても、真の愛は得られないぞ」
「うるさい! お前は引っ込め!」
レオンは頬を殴られた。刺されなかっただけマシだったのだろうか? レオンは暴漢の背後にまわった。暴漢を抱き締める。そして空へ。高く、高く、そして更に高く、2人は飛び続ける。
「おい! 何をするんだよ! 降ろせ! 降ろせ!」
「手を放そうかなぁ」
「やめてくれ! ここから落ちたら死んでしまう! ゆっくり降ろしてくれ!」
「もう、ナイフを振り回したりしないか?」
「しない! しない!」
「あの女の娘(こ)のことを諦めるか?」
「諦める! 諦める!」
「じゃあ、降ろしてやるよ」
2人は急降下。
「速い! 怖い! 怖いよ-!」
レオンは公園の噴水に暴漢を降ろした。
「寒い! 寒い! 冷たい!」
「由貴さん、一件落着だよ」
「レオン、あなたは大丈夫なの?」
「え?」
「めっちゃ鼻血が出てるよ」
レオンは自分の鼻を拭った。思っていたよりも多い自分の血を見た。血が苦手なレオンは、血を見たら気を失った。
「レオン! しっかりして!」
その時、どこからか除夜の鐘の音が鳴り響いた。
吸血鬼の、お正月! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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