異世界転生 無限ループが終わらない

囲碁界最高美男子ムスイ

第1話愚かなムスイの転生

私は魔王。名前などはない。人間や魔族たちが考えた信仰の存在を勝手に使って名乗っているにすぎない。


今、茶を持ってきたこいつは女神。以前、暇だった時に作り出した存在だ。私の身の回りの世話をさせている。


私は手元の映像で地球に住む「とある男」を観察している。特に理由はない。あえて言うなら、たまたま目についたから、というのが理由だろうか。名前は知らないが、ネットネームで「ムスイ」と名乗っているようだ。


「魔王様、最近はその方にご熱心ですね」

「こいつか? こいつはムスイという男でな、実に愚かで面白い」

「愚かなのですか?」

「ああ。囲碁と言うゲームをやっているのだが、100目差をつけて勝とうとしている。1つでも上回れば勝ちのゲームであるにもかかわらず、100の差を常に目指している。何の意味も無いにもかかわらずだ。実に愚かだ。」

「なるほど・・・・・。では、あちらの世界も?」


女神が言っているのは魔王が作り出した「世界」のことだ。魔王は女神と言う神を新たにつくり出すだけでなく、世界を作り出すことも可能なのだ。


「あれもムスイがやっているネットゲームとやらを元に作った世界だ。魔族と人間が存在する。世界の領地を奪い合っているのだが、はたしてどちらが勝つのか」


映像の中で、ムスイはパソコンのキーボードをバンバン叩いている。


「ムスイさんという方、荒れていますね」

「囲碁で同格の相手に100目差をつけるなど無理がありすぎる。当然、負ける。ゆえにイライラする。これを繰り返している。実に愚かだ」

「なぜそんな無理をして勝とうとしているのでしょうね?」

「勝つことはなく、石を殺すことを楽しむタイプのようだな。3段ほどの棋力はあるようだが、無理な手を打ち続けているため、今は2段に落ちている。それどころか次負ければ初段にまで落ちてしまうところまで落ちている。それでイライラしている。イライラしていることが原因で良い手が打てない。だから負ける。それを繰り返している。」

「・・・・・愚かですね」

「ああ、実に愚かだ」


そして、対局が終わった。ムスイの中押し負けだった。


「負けて初段に落ちましたね」

「愚かとしか言いようがない」


ムスイはブチ切れてパソコンをぶん殴る。

(ビリビリビリビリビリ!!!)←感電

そして、床に倒れる。(チ~ン!)


「・・・・・死にましたね」

「う~む・・・・・見るに堪えない光景だ」

「せっかく魔王様の楽しみとなっていましたのに・・・・・」

「うむ・・・・・このまま死なせるには惜しい。どうせ失われる命。もう少し、私の余興に付き合ってもらうことにするか・・・・・。」


魔王はムスイの方に手をかざす・・・・・。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


ムスイは謎の空間に来ていた。


「こ、ここは? さっきまで自分の部屋で囲碁をしていたような気がするんだけど・・・・・。」


そこへ女神が現れる。


「初めまして、ムスイさん」

「あ、あなたは?」

「私は女神。悲しくも死んでしまったあなたを異世界に連れていくためにここに参りました」

「・・・・・え? 私が死んだ? 何を言っているんですか、私は死んでいませんよ?」

「いえ、信じられないかもしれませんが、あなたはパソコン画面を殴って死んで・・・・・」

「いやいやいや、今私はここにいるというのに死んでるって意味わからんのですけど。女神さんでしたっけ? 落ち着いてください。冷静になって下さい。だいたい・・・・・って、あれ? ほっぺをひねっても痛くない?」

「そうです。今のあなたは精神体であるため・・・・・」

「ああ、そうか、夢だ。夢だから痛くないんだわ、きっと。あぁ、そうだそうだ、囲碁を打った後に布団に入った記憶がある! 間違いない! これは夢だ!」

「ム、ムスイさん、落ち着いてください、とにかく話を・・・・・」

「何が話だ! 新手の詐欺か、お前は! そんなんで私の口座からお金を引き出せると思ったら大間違いだぞ!! とっとと失せろ!! このボ●ナスが~!!」





映像で見ていた魔王が、問答無用と判断し、強制的にムスイを異世界に飛ばした。


「うぅむ・・・・・」


女神は魔王の元へと戻ってきた。


「・・・・・ただいま戻りました」

「大変だったな」

「・・・・・はい」


女神は短期間でかなりやつれていた。ムスイのせいで。


「ふむ・・・・・威勢のいい奴だ。ムスイがこの世界でどのような存在になるのか楽しみだな」

「・・・・・と言いますと?」

「私が直接手を下して生み出したのだぞ。お前と同様にな」

「私と同様に・・・・・。ということは、もしかして・・・・・」


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


眼が覚めると、目の前に2人の人物がいた。


「ムスイ~、お父さんだよ~」

「お母さんよ~」


目の前で幸せそうに笑っている2人。


う~む・・・・・これも夢なのだろうか? 私はほっぺをつねってみた。・・・・・痛い。これは、現実だ。


信じられないが、体が赤ん坊になっている。


ということは、さっきの女神は本物だったということか? 女神は「異世界に連れていくために・・・・・」と話していたが、私は死んで異世界に連れてこられたということなのか? し、信じられない・・・・・。


とはいっても、こうなった以上、ここで生きていくしかない。私は半信半疑ではあったが、現状を受け入れざるをえなかった。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


私は布団の中で考える。


女神は「パソコン画面を殴って死んだ・・・・・」と話していた。おそらくこれは事実だ。うっすらとそんな記憶がある。ということは、私の死体は部屋にあるということか。朝になったら両親に発見される。救急車が着て、病院に運ばれる。そして、死んでいるのが確認される・・・・・といったところだろうか。


私は母さんが泣いている姿をイメージする。死んだ私は病院のベッドの上に寝かされている。白い布が被せられている。そして、ベットの横で母さんが泣いている。私は何をやっているのだろうか。これから親孝行できる年齢であるというのに。親よりも先に死に、親を泣かせてしまった。なんて情けないことだ。なんと親不孝なことか。これからできることは沢山あっただろうに・・・・・。)


私はそんなことを考えながら・・・・・泣いた。母さんに申し訳ない・・・・・、と。そして、母さんに会いたい・・・・・、と。ムスイはまだまだ精神的に幼かった。


父さんのことは・・・・・、少しだけ思い出した。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


ムスイの異世界生活が始まる。


生活していて気付く。この村はとても貧しいみたいだ。食べ物も貧祖で、みんな痩せている。こんな貧しい村では幸せな人生を送れそうにない。


この村が貧しい原因は幾つかあるだろうが・・・・・、一番の問題は「水」だ。畑に水をやるのが大変すぎる。


①井戸から水を引き上げる

②バケツに水を入れる

③畑に持っていき、水をかける

④水が無くなったら井戸へ


毎日これを繰り返している。何と言う非効率! 何という重労働! 水まきだけで1日が終わってしまいそうだ。


それに、この村には若い人がほとんどいない。老人ばかりだ。労働力が無さすぎる。完全に滅びゆく村ではないか。なんでこの村に住もうと思ったのか、我が異世界の両親よ。


とにかく、この問題を早々にどうにかしなければ。


ざっと見た感じ、村の住人は10人程度か。土地は広々とある。が、労働力が無さすぎてほとんど使われていない。家が数件、畑があって、家畜がいて、森に囲まれていて・・・・・、といったところか。家畜は「豚」と「ニワトリ」だった。異世界と言っても、私がいた世界とさほど変わらないな設定だな~。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


隣の家には私と同い年の娘さんがいる。名前は「モコ」という。村のみんなは「モコちゃん」と言っているが、私は「モコモコ」と呼んでいる。おじいさんとおばあさんと一緒に住んでおり、両親はいない。


モコモコは物静かで人見知りが激しい子供だった。この村には私とモコモコくらいしか子供がいない。お隣同士で年も同じということもあり、モコモコはよく私のもとへやってきた。そして私の服をつかんで後ろからついてきいた。


いや、私も子供の遊び相手をしてあげられるほど暇ではないのだが・・・・・。そのため、私はまったく相手にしていなかった。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


ムスイ7歳は、貧乏な村をどうにかするため、村の開拓を決意する。


まず、村長に企画書を提出。村長の協力を経て、村人総出で村の開拓を行うことになった。


①「水まき用の押し車」を作成。そこに水を入れ、畑まで押していき、ヒシャクで水を撒いていくというやり方だ。これでだいぶ負担が小さくなる。


②森に「大きな池」をつくって、そこから村へ川をひいていく。川が畑の近くにあれば、さらに水やりが楽になる。


③「果物の種」を村の近くの森に植える。いずれ果物が収穫できるようになるだろう。


④「果物」や「木の実」を増やせば「動物」が増えてくる。狩りをしやすくなり、肉も食べられる。


このプランを着実に実行し続けたことで、村の収穫量も増えていった。仕事も楽になった。そして、余裕のある村へと変わっていった。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


始めは後ろからついてくるだけのモコモコだったが、色々なことを覚え、常に先頭に立ってムスイに協力してくれるようになった。ムスイにとってモコモコはかけがえのない大事な存在になっていた。


そして18歳となり、私はモコモコと結婚することになった。村の人たちもみな祝福してくれた。


村も豊かになった。私の隣ではモコモコが私に微笑みかけてくれる。このまま幸せな人生を送っていけるんだろうな~。私はそう思っていた。しかし・・・・・、急に原因不明の病気になってしまった。


最初は「横になっていればすぐに治る」と思っていたが、次第にベットから出れなくなった。そして、起き上がることもできなくなり、とうとう食事をするのも困難な状況になってしまった。


意識朦朧で苦しむ私。ベットの横ではモコモコが涙を流し私の手を握っている。私の人生はこんなところで終わってしまうのか。これからだというのに。モコモコをまだ幸せにできていないというのに。


私は涙を流しながら異世界人生を終えた・・・・・・・。享年18歳であった。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


「ムスイさん、お久しぶりです」


現れたのは女神さまだった。ここはあの時の天国のような場所?


「女神様、お久しぶりです。これはどういった状況なのでしょうか?」

「あなたは異世界に転生し、異世界で18年生きてきました。しかし、志半ばで病気により命を落としました。」

「あぁ・・・・・」


そうだった。私は異世界で頑張って生きてきた。モコモコと結婚し幸せな人生になると思っていた。しかし・・・・・病気で命を落としてしまった。肝心な時にいつも死んでしまう。本当に情けない。私は落胆した。


「大丈夫です、ムスイさん。あなたはもう一度、人生をやり直すことができます」

「・・・・・え? 人生をやり直す? どういう意味ですか?」

「あなたはもう一度赤ん坊に戻り、人生をやりなおすことができるんです」

「赤ん坊に戻って・・・・・やり直す・・・・・???」

「はい、その通りです」


予想外の話であった。いや、無茶苦茶な話と言うべきだろうか。転生したと思ったら、次はリセットボタンを押したかの如く人生をやり直せるだと???


「そ、それはありがたいことなのですが・・・・・」

「遠慮することはありません。ムスイさんの好きなように生きてください。ですが、前回の生では、ムスイさんはアンス村の中でだけ生活し生涯を終えました。一ヶ所の村だけに執着するのは良くありません。せっかくの異世界です。次の生では、世界に目を向け、ド派手に生きてみてください。」

「・・・・・わかりました」


正直、女神さまが何を言っているのかまったくわからなかった。





「魔王様、言われたとおりに話しました」

「ああ」

「しかし、なぜムスイさんは赤ん坊に戻れるのですか?」

「それは、ムスイが神だからだろうな。神は死ぬことなどない。その結果、時間が逆戻りし、ムスイは赤ん坊に戻ることになった、ということだろう。私でも予測できなかった事態だ。これから面白くなってきそうだな」

「・・・・・・・・・・」


魔王は珍しく笑っていた。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


フと目を覚ますと・・・・・、目の前には両親の顔があった。


「ムスイ、お父さんだよ~」

「お母さんよ~」


う~む・・・・・まさか同じ光景を再び見ることができようとは。この両親にも世話になっているしな。今回の生ではしっかりと親孝行をせねば。


いや、それよりも早くモコモコに会いたい。病気で苦しんでいる時に、涙を流しながら私の手を握ってくれていたモコモコを思い出す。私が生涯をかけて幸せにすると誓った妻だ。それがあのていたらく。史上最低の夫になってしまった。今回の生では必ず幸せにしなければ。私は心からそう誓った。


それにしても、この赤ん坊の肉体がもどかしい。動けるようになって、早くモコモコに会いたい。


私は生後一週間で立ち上がれるようになった。私は急いで隣の家にいるであろうモコモコの元へと歩いた。・・・・・が、外へ出て驚いた。私の知っている景色とは違う。ここは・・・・・「アンス村」ではない!? 別の村だ。一体どうして・・・・・!?


一体何が起こっているのか・・・・・。0歳1週間の私は、その場に立ち尽くすことしかできなかった・・・・・。

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