破滅の思い出

破滅の思い出

「私、将来は世界を滅ぼしたいの!」

小学生の頃、そんなことばかり言ってる子がいた。僕はなぜだかその子のことが気になって小学生の間はいつも一緒にいたような気がする。


だけど、中学生になって彼女は僕の前から姿を消した。中学受験をしたらしい。

僕の初恋はあまりにも簡単に終わってしまった。最初は悲しかったのだけれど、中学生活の新鮮さはすぐに僕の心から彼女を取り上げた。


その後、僕は人並みに勉強して人並みに恋をして、人並みに失恋して、大人になっていった。

25歳になった今は、まぁそれなりに暮らしている。

特別なことはないが別にいい。

可もなく不可もない人生。

そんなことを考えていたが、携帯電話が震え現実に戻る。

小学校時代からの友人がメールをくれた。


「来週、同窓会しようぜ」


唐突だな。まあでも久しぶりに会ってみたい人もいるし行くか。

同窓会で集まったのは懐かしい顔ばかりだ。僕達ももう大人になったのだなと考えながらビールを飲んでいると横に女の子が座ってきた。


「久しぶり、元気だった?」


「ねえ!そんなことよりも聞いてよ!もうすぐ世界を滅ぼせそうなの!」


本当に懐かしい感覚だ。初恋の感覚、彼女との再会は僕の平凡な人生を変えてくれる気がした。

彼女は今僕でも名前ぐらいは知っている著名な研究機関で働いているらしい。

互いの話をしながら僕は彼女のいなかった空白の時間を埋めていく。

同窓会の日以降も僕たちは何度も話をした。でも、今日が最後になるみたいだ。

彼女は涙ながらに世界を滅ぼすスイッチを眺める。


「ねぇ、私本当に世界を滅ぼしたかったの」


「うん、わかってるよ」


そう言いながら僕は彼女の掌に乗った小さな世界の終わりを起動させた。

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破滅の思い出 @majiro2

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