第2話 ポエミー

「このギルドに登録している冒険者のリストをくれ」

へこみちは寂れた冒険者ギルドのカウンターに行き、やる気のない太った女店主から紙束を受け取ると、店内端の椅子に座り込んで読み始めた。しばらく後にその中から一枚の紙を引き抜くと

「……こいつ、だな」

と神妙な面持ちで言って、残りの紙束を店主に返すと、腰に携えた血塗られた棍棒とともに店をあとにした。


「今日も、お花さんは元気だねえ」

路地裏の花壇にジョウロで水をあげ、可憐に笑いながらショートのピンク髪を揺らす、小柄な少女の近くで、へこみちは立ち止まり

「貴様が、吟遊詩人ポエミーか」

と尋ねた。少女は嬉しそうに立ち上がって、つぎはぎだらけのスカートを翻すと

「うん!私がポエミーだよ!もしかして冒険者ギルドからのの人!?」

「俺はへこみち。ニートレベル99だ」

少女はクスクスと笑い

「私、吟遊詩人レベル28だよ。七歳から毎年一レベル上げてるの。今年で二十八年目!」

少女?は屈託なく笑う。

「やはり俺より年上か。頼もしいな。ポエミー、魔王を倒しに行くぞ」

「うん!ちょっとお父さんに言ってくる!」

少女?は軽やかなステップで路地裏の自宅に駆け込むと、焦った様子の鍛冶職人らしき年老いた父親が走り出てきて

「冒険者様!本当に良いのですか!?娘は下手な詩を作るだけで何の役にもたちませんよ!?」

へこみちはよく日に焼けた顔でニカッと笑うと

「あとは俺に任せろ」

と言った。


「ああーお空がーキラキラしてるのー。私の髪がなびいてー世界がきれいでー」

ムキムキのへこみちの体幹が真っすぐな太い首にまたがって、肩車されたポエミーが即興で詩の朗読をしながら二人は夕暮れの街外れまで進んでいく。へこみちの背中には、冒険用の大きな布の袋が背負われていて、血塗られた棍棒は腰に携えられている。

「ポエミー、まずは近くの洞窟でこの辺りの魔物のボスを倒すぞ。お世話になったブルー王にモンスターの首を献上しないとな」

「うん!夜襲ね!モンスターの寝込みを襲うのね!」

二人は次第に暮れていく草原に闇に溶けるように旅立っていった。

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