消えた彼女との365日の記憶

伊富魚

関節の痛みに

老年の声がふとこぼれる。風邪っぴきの夜のこと。温められた車に負われ、車窓を冬の街灯が滑っていく。幼年の記憶と重なるかと思ったけれど、それもまた違う、さよならの言葉が砂のようにさらつく。けれど幼年もそうだったのかもしれない、青年の自分には見せてはくれない、幼年と老年のひたと重なることもあるのかもしれない。老年の声と幼年の声は今、自分を枯らせていく言葉を持っているようだ。隣の彼女は行き先を見つめている。私は薄灰色の天井に目を向けている。

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