救世主たる【勇者】

 …いや、たまたま世界を救っただけで。


 幼少期に神父様から技術スキルを鑑定してもらって。

 【感染】とかいう、訳のわからない代物しろもので。


 ――よーわからんけ。

 畑仕事に精を出してたら上からドラゴンが。


 討伐隊とうばつたい失態しったいと後で分かったんだが。

 ともかく、亡くなっちまったもんで。


 そしたら女神様が日本国に行けと言って。 


 建物ぐちゃぐちゃで。

 知らん男の体に放り込まれて。


 見たら、死体がぐちゃぐちゃ動いちょる。


 俺の方じゃあ、ゾンビっていうが。

 魔術師も無しに動くもんで気味悪くて。


 ――んで、しばらく歩いとったら。

 上から鉄の塊がやってきて。


 聞いたら、ヘリという乗り物だそうで。

 保護とか言われて、連れてかれて。


 …んで、こっちで言う教会みたいな。

 病院ってところで検査ってもんを受けて。


 いやー、まいった。


 針で血を抜かれるわ。

 鉄の箱に紐でついた丸いもん貼り付けられるわ。


 ま、ベッドは上等の宿屋並みに清潔だったがな。


 …でもなあ、そこの神父様?


 いや、医者とか言ったかなあ。

 ともかく連中がびっくりしてな。


 【わくちん】が出来るとか。

 【ぱんでみっく】が、抑えられるとか言って。


 わーわー騒ぎまくって。

 

 しばらくして。

 ガラス張りのとこ連れてかれて。

 

 ベッドに縛られたゾンビに注射してよ。


 ――そしたら、顔が。

 みるみる戻るじゃねえか。


 で、医者を名乗る神父様が。


 あんたは救世主だと。

 人々を救った英雄だと言ってきてさ。


 【わくちん】ってのを作ったらしくて。

 それに俺の血が元になっているんだと。


 ――んじゃあ、良かったなと言ったらさ。


 みんなブスブス。

 自分達にも注射を刺し始めて。


 これで世界が元通りになるって。

 みんな大喜びはするんだけどさ。


 …見間違いかね。

 みんな、俺と同じ顔になっていくんだ。


 ――あれから五年。


 建物も直ったし。

 ゾンビになる人間も現れねえ。


 でも、みーんな同じ顔。

 あげく誰も気付いちゃいねえ。


 ――だからさ、嬉しくてな。


 アンタだけだよ。


 この世界で。

 俺と違う顔をした人間と出会うのはさ…

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