第2話 羽のない少女

◆羽のない少女


 ピノが幼女だった頃、他の子どもと同じように両親に溺愛されていた。その可愛らしい顔を見て、「まるで天使のようなお顔だわ」と母親が言って「お前に似たんだ」と父親も嬉しそうだった。

 そんな両親の優しい心に包まれてピノは育った。

 だが優しかった両親の心は次第に沈んでいった。

 思春期を迎えても、娘に羽が生えてこなかったからだ。

 両親には羽があっても生まれてきた子供には羽が生えない。それは珍しいことだった。


 ピノは両親に謝った。

 何故、親に謝るのか?

 つまり自分に羽が無いせいで、父親は村の仕事をやりにくくなり、母親も外を歩きづらくなったからだ。

「羽の無い子」を生んだ夫婦としてレッテルを貼られた。

 それでも「ピノのせいじゃない。ピノは悪くはない」と父母とも慰めていたが、その声には生気がなかった。両親には未来が見えなかった。

 このまま羽が生えて来なければ、親子共々差別と迫害を受けることになる。それだけではない。

 羽の無い子は結婚できない。つまり、両親は死ぬまで娘を養っていかなければならないことになる。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

 ピノは泣きじゃくりながら両親に謝った。それに対して父も母も言葉を返さなかった。

 二人は思っていた。これからもずっと娘の謝る声を聞かなければならないのだ、と。

 そんなピノの家では、両親の喧嘩が絶えることがなかった。

 ピノが自分の部屋に行くと、

「羽の無い子を生んだのはお前のせいだ」と夫が妻をなじり、妻は「あなたのせいじゃないの?」と非難した。

 ピノは両親の喧嘩に耳を塞いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る