もりびと

ぼっちマック競技勢 KKG所属

もりびと

 私たちは、ずっと彼らを見てきました。


 一番最初に彼らが生まれたのは少し前になりますかね。私の子供のところに急に彼らは生まれました。その塊は今まで見てきたどんなものとも違いました。動いていたんです。


 もちろん、動くものは他にもしっています。ですが、あれは動くことをわざとしているような感じがありました。


 子供達の意思でも、守人もりびとである私の意思すらも影響を及ぼさない範囲で動いていました。自発的行動、とでも形容しましょうか。


 私たち守人はそれを生命体と呼びます。気の遠くなるような時を生きた私にとってもそれは新鮮な経験でした。


 違う守人が見守る集落。そんな遠く遠くの場所ではそのような生命体がいたとは聞いたことがあります。でも大体の集落では見られることも、生まれることもないそうです。


 だから私は子供に生命体が生まれたとき喜びました。


 その生命体と呼ばれる塊は最初はとても小さなものでした。数も数えられるほどしかいなかった。ですが彼らは数を増やし、形を変え、大きくなりました。


 見ているのは愉快でした。守人としてたくさんの時間を過ごし、多くのことを知りました。子供達の成長を見ているのも楽しかった。だけれど生命体の動きを見るのはもっと楽しかったのです。


 まるで新しい子供たちがたくさん生まれていくような気持ちになりました。


 彼らは姿を変え、どんどん増えていきました。彼らは何をしたかったのか、よくわかりません。たくさんの同類たちを作って、同類とみなされなかったものはまた新しく同類を作ります。

 どんどん仲間と種類を増やし、奪い奪われあう。そんな関係がずっと続いています。


 何を目指してそこまでしたのでしょうか。意味などなかったのかもしれませんが、私にとってそれは不可思議で仕方がありませんでした。生きる、ということの意味、そして繁栄を目指す意味がわたしにはわかりませんでした。


 私が少し眠っている間にも彼らは変わり続けて、どんどん増えました。そんな幸せの時間がいくらか経ちました。私は他の守人たちにそれを自慢し、褒めてもらいました。


 私はいつの間にかその生命体という存在に固執してしまっていたのかもしれません。


 だからなのでしょう。他の守人が自分の子供たちの分裂体を差し向け、私の子供と生命体を壊そうとしました。何度も、私は防ぎました。ほかの守人に迷惑だと言いましたが彼らは聞く耳を持たず、次々と襲ってきます。


 何度も何度も何度も。いくつもの彼らのこどもを壊しても懲りることなく彼らは襲ってきます。


 生命体はいつの間にか大きくなっていました。数を増やしていました。頭も、よくなっていたようです。昔はフワフワとした感覚で星の意思に逆らい動いていましたが、彼らはやっと考えられるようになっていました。彼らの顔を苦痛に歪めたくなかった。


 だけれど別れは唐突です。


 生命体のいた私の子供は、壊れてしまいました。他の守人達のせいです。海は熱湯となり、地上も焼け野原。植物も生物も、ほとんど全ての生命体が死に追いやられました。


 私は、その時たいそう悲しみました。その襲撃の余波でいくつもの生命体が死んでいくのを私はみていられませんでした。


 だけれどそこから得たものもありました。他の守人達の思惑通り、私は生命体からの依存から逃げおおせました。あまりに固執していた私はやっと自我を取り戻せたのです。


 私はかなしみ、だけれど吹っ切れた気もしました。どこか清々しいようなそんな気持ちです。そうです。私はいくつもの守人の一人で、歯車。イレギュラーは自転と公転のサイクルを淡々と続ける私にとって邪魔でしかありません。


 生命体のような豊かな心は、私にはありませんでした。感受性も、感情も、思考能力も。私は逃げるようにその子供から遠ざかりました。その子供の世界を覗くことは二度とないだろうと思って、近づくこともありませんでした。


 その時から幾分か時が立ちます。生命体の生まれた星。私の集落の中では地球と呼ばれている私の子供です。どうしようもないはやる気持ちを抑えられずに、遠目からその風景を眺めました。


 するとどうでしょう。当時は熱湯に覆われ、さながら地獄のような風景だったそこも、いつしか綺麗になっていました。また、最初の頃のような景色に戻りつつあります。この子供なら、また生命を育める。そう思いました。


 もしかしたら。もしかしたらもう新しい生命があるのではないか。


 そんな希望を胸に抱きながら、長い長い時を経た地球を再び眺めることにしました。するとやはり、たくさんの生命がいます。昔滅びてしまった生命が、より増えより高度になって生きています。動いています。


 私は歓喜しました。そして今再び、私は彼らの姿を眺めています。


 私の名前は彼ら生命体が言うところの太陽。彼らの行先を燦々と照らし、そして導く存在。生命体の守人です。


 子供たちよ。生命よ。どうかこれからも良い旅を。

 私は空から見守っています。

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