第11話

第十一章:家を失うという現実


オオカミ少年は、これまで住み続けた家を出ることになった。ドクターから「一人での生活は絶対に無理」と言い渡され、家の解約と家財の整理を進めざるを得なかった。整理という名の「捨てる作業」が続き、自分の大切なものが次々と消えていく中、オオカミ少年はすべてを諦めたかのように見えた。


「もう施設での生活しかないんだ…」


その言葉には深い絶望が込められていた。彼の意向など誰も聞いてはくれない。家族といえば生活保護を受ける兄だけであり、十分な支援を期待できる状況ではなかった。


看護師からの連絡


ある日、入院先の看護師から連絡が入った。

「ドクターが『24時間介護レベルの支援があれば、一人暮らしでも大丈夫です』と言っています。」


憲作は耳を疑った。

「今さら何を言っているんだ?もう家を解約して帰る場所はないんだぞ。」


さらに看護師からは、施設を探しても空きが見つからないという話も漏れた。

「つまり、施設がないから一人暮らしを許可するということなのか…?」


憤りと疑念


憲作の胸には憤りが込み上げた。

「ドクターや計画相談、ケアマネは何を考えているんだ?施設がないからと言って、無理矢理一人暮らしに戻そうとするなんて、あまりにも無責任だ。」


彼らの言動には一貫性がなく、オオカミ少年の状況を真剣に考えているとは思えなかった。

「結局、自分たちの責任を回避しようとしているだけじゃないか。」


憲作は苛立ちを抑えられなかった。彼らの言葉がもたらす混乱と、オオカミ少年が感じている孤独感を思うと、心が締め付けられるようだった。


未来への模索


「どうすれば彼にとって最善の選択肢を見つけられるんだろう?」


憲作は、もう一度市役所や関係者と話し合うことを決意した。現場の責任を押し付け合うだけでは、利用者の未来を守ることはできない。彼らに必要なのは、システムの枠を超えた人間的な思いやりだと感じた。


「これが介護の現実なら、俺たちが変えていくしかない。」


憲作の胸には、オオカミ少年のためだけでなく、介護現場全体のために何かを変えたいという強い思いが芽生えていた。


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