深緑戦域の超克者 — プランターワールド・ザ・ヴァンクイッシャー —

夢咲蕾花

【Episode1】形影

Prologue:ヴァンクイッシャー

 焼けた家、燃える人、転がる肉片と焦げた人間の臭い。

 赫赫かくかくと燃え上がる村に照らされるのは真紅の機械の巨人——両腕と両肩に大きな武装を取り付け、男性的なフォルムのそれがコーパル・ヴァンクイッシャーという機動兵器であることは知っていたが、いざ実物を見るのは初めてだった。


 大勢死んだ。少年は瓦礫の下で呻きながら、ひとしきりの虐殺を終えて去ろうとするそいつを瞳に焼き付ける。

 友が、仲間が、弟妹のように可愛がっていた連中が、兄と慕っていたリーダーが、もういない。この世のどこにもいないのだ。

 あの真紅の巨人が奪い去って行った。


 ——畜生。俺に、もっともっと力があればこんなことにはならなかった。俺がもっともっと強ければ、みんなを守れたんだ。畜生!

 ——ぶっ殺してやる。俺が、近い将来必ず殺してやる。みんなの仇をとってやる。絶対に、絶対に!


 巨人が去っていく。少年はなんとか瓦礫から這い出した。あと十分も遅ければ、火の手に巻き込まれていただろう。だがすぐに雨が降り始めた。

 燃え残っていた納屋にあったシャベルで大きな穴を掘って、残っていた遺体や人間の残骸を入れ、土を被せた。そこに、アルミ鋼板の破片を息を切らせながら持ってきて突き立て、「英霊、ここに眠る」とナイフで強く刻み込む。


 墓を前に、ただひたすらに。

 自分だけが生き残ってしまったという奇妙な言葉にしづらい、本当に摩訶不思議な、抱く必要など本来はどこにもないであろうその罪悪感を、彼は胸に感じてしまった。そしてその昏い感情に囚われたら、きっと自分は折れる——直感で悟り、網膜に焼き付けた真紅の機体を思い出した。


 炎を背負う機械巨人。その名も知らぬ、なぜここを襲ったのかさえ知らない。ただ、やつらが村長の家に押しかけていたことは確かで、そこには何か事情があったのだろう。

 知ったことか。殺してやる。あの機体も、その仲間も。

 少年は潰れそうな心を復讐心で糊塗ことする残酷な生き方で誤魔化し、涙を拭った。いや、……枯れた、というべきかもしれない。


 この世界は一人で生きるには広すぎて、孤独でいるにはあまりにも冷たく、水底のようにくらすぎた。

 だから、彼は戦うことを選んだ。

 機械の巨人の胸に抱かれ、機械乙女と共にそれを操縦し、喪失感と罪悪感と、無力感を——ただひたすらに復讐心の燃料として注ぎ込み、埋み火のように静かな狂奔めいた温度で燃焼させた。


 過去を克服ヴァンクイッシュするために——。

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