小説に呼ばれて
微風 豪志
第1話
薄明かりが靡くカーテンの隙間から顔を覗かせた月光に揺られ、日元巡(ひもとめぐる)は小説の続きを考えていた。
「果たして本当にこのままでいいのであろうか?」
自分が書いた小説に出てくる魔王を倒した勇者様の境遇は今の自分にあまりにも酷似していた。
Q.伝説の勇者として魔王を倒したその先は?
勇者は幸せに暮らせるだろうか?
それとも魔王を倒した新たな脅威として、迫害にあうなんていうさらなる苦難が待ち受けているのであろうか?
私は是非とも前者の案を採用して、私の書いた小説[とある勇者の目次録]を終わらせたいと思っていたが、しかし。
編集者が選んだ選択は後者であった。
私は睡眠時間と命を削りながら一文字一文字心血を注いで、顔面がぐちゃぐちゃになるくらい必死になって書いている。
だから、私の辞めたいタイミングで作品は終わりを迎えるべきなんだ。
熱の冷めた作品に命を注ぐなんてまるで他人の子供を育てているみたいな感情だ。
私は筆を持てば世界が見える様な天才じゃなかった。
「もう作品を書きたくないなんて...バカみたいだよな」
ずっと夢を追ってきた。
追って追って追って追って。
辿り着いたと思ったら、追われて追われて
追われて追われて追われて追われて。
遂に終われてしまえたらなんて...。
「よくないな」
さっぱりだ、案が出てこない。
そりゃそうだやりたくない事やってんだから当たり前だよ。
こんな時に書く文章はろくなもんじゃない。
休憩をしようと思いそのお供には何が最適なのかを考える。
スマホ、小説、映画、最終的に選ばれたのはデスクトップの左側にある小さなブックスタンドに乗っている雑誌だった。
雑誌を1ページずつ丁寧にめくっていると10ページ目に芥川賞受賞!とデカデカと書かれたコラムがありそこに目が釘付けになる。
最初の野望、芥川賞受賞して今までバカにしてきた奴らを見返したいと考えていた昔の自分はいつの間にいなくなってしまったのだろうか?
「俺は変わらずに俺だろ」
芥川賞を受賞したいその気持ちは嘘じゃないけど今のままでは確実に取れない。
「本当は純文学を書きたかったんだけどな」
どこで道を間違えたのか、いまではライトノベルの異世界転生ものを書いて日銭を稼いでいる。
でもやるだけやってみたらいいのかもしれない。
「さて小説の続きでも書くか」
僕はまた食い入る様に画面に向かって唸り続けた。
翌日の朝。物音一つしない私の部屋の静寂をスマホが掻き消した。
「ッ!はい、もしもし日元です。」
「あ、日元さん?私です。宮原です。」
だれかと思えば編集者の宮原さんだった。
「〆切過ぎててごめん、もう無理!もう俺には書けない!」
「スランプってやつですか?大丈夫です、私と先生二人一緒なら乗り越えられます。先生の小説を今か今かと待ち侘びている読者さんのためにも一緒に頑張りましょう!」
ネットの掲示板を見ても最近はあまり面白くないと酷評されてるのを知っているくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあとしていられるものだ。
ニヒリズムに支配された私が書く作品が面白いわけないだろう、そんなものは私が一番理解しているんだ。これ以上作品を汚したくない。だからもう辞めたいのに、編集は自社の看板を失うのがよほど怖いらしい。
「カフェでも行きませんか?」
「あー行く...か」
「了解です、実はもう家の前についてるんですよね」
ボサボサの髪をかきあげてぽりぽりとかきながらドアの鍵を開ける。
そこには黒髪のショートボブ、ナチュラルメイクの優しげな子がボーイッシュな服装に身を包んで立っていた。
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小説に呼ばれて 微風 豪志 @tokumei_kibou_tokumei
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