第8話

「君は…」



言いかけた言葉は簡単に遮られた。



「ほんとは建物全体を木端微塵にするつもりだった。


……って言ったらどうする?」



攻撃的な目が弧を描いて不敵な笑みを作る。



「爆発は昼過ぎ、講師も生徒も沢山いる中で起こったわ。


…建物全体を爆破するつもりなら真夜中に実行した方が成功率も高いし、余計な犠牲者も出さすに済むはず」



彼は小さく息を吐いて笑うと私から視線を外し、ピアノの前框(まえかまち)に頭を預けた。



再び視界に図書館を捉えたまま、彼は白状する。



「俺の技術なんかじゃまだ建物一つ破壊することはできない。


だからその中にいる人間に傷ついてもらえば、定期的にでも小爆発を起こせば、そのうち生徒はみんな塾をやめるんじゃないかって思った。



そこまでやり遂げられたら…校舎解体まできっと遠くないじゃない」



頑なに何かを守ろうとする彼の瞳はいつの間にか穏やかで、とても熱っぽい。



冷静に考えればそれは限りなく歪でイカレタ策略だ。



それでも彼の真剣な表情と、こちらまで取り込まれてしまうような彼が纏う空気感がその場を独特なアンビアンスへ導いた。



「…ねぇ、…俺を逮捕する?」



「…今のを自白とすれば、被疑者として任意同行してもらうことになるわね」



「……そう」



照らす斜陽が彼の横顔に陰を作って。



彼がおかしいほどに恋慕うステンドグラスは輝かないまま太陽は帰って行く。



光を浴びたその窓はとても綺麗なんだと、最後に彼は小さく呟いた。



それを守る為なら、




「…誰が死んでも良かった」






彼は対物性愛者だった。




―― 排除 Fin. ――

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