第15話
さっきの椎ほどの剣幕はなかったものの、くいっと引っ張られて体温は上昇。
掌から甲を覆う温もりも十分熱かった。
緊張と不安と期待が募ってうっすら息がし辛い。
胸が圧迫するような感覚。
言葉がないまま向かったのは人の少ない昇降口。
足取りがゆっくりになってとうとう立ち止まると河合くんは振り返って私を見下ろした。
繋がれた手はそのまま彼が距離を詰める。
じっと私を見据える瞳は真っ直ぐで視線を逸らせなくて。
2階から昼休みの賑やかな声が漏れてくる。
ただ今この狭い空間は時間が止まったように静かで。
でも張り詰めたような空気なんかじゃない。
ミュートがかかったような淡いアトモスフィア。
声を漏らすことはないまま、河合くんはそっと唇を動かした。
音はない世界に空気が震える。
たった一言で、たった二文字。
それは簡単に伝わった。
『すき』
世界がほんのり色づいた。
「…私も、河合くんのこと好きだよ」
青年は花を咲かせたように綺麗に笑ったけど、それは少し寂しそうにも見えた。
伝えたいことを伝えきれないもどかしさが彼にそんな顔をさせるのかもしれない。
「…大丈夫だよ、これから伝えて行こう」
私と河合くんの、二人の方法で。
その一言で彼はまた柔らかく笑った。
河合くんは高校に入学する前、とある病気の手術をした。
高校に入って見た河合くんは急に投げやりで、諦めた大人になった気がした。
声帯を取った彼は言葉を紡げない。
―― mute. Fin. ――
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