mute.
第1話
河合くんはいつだってそうだ。
「ねぇー河合ー、代わりにやっといて、ね?お願い?」
彼は絶対に文句を言わない。
校内に香水のきつい香りを撒き散らして嫌な色気付き方をしたクラスメイトの男子たちに掃除当番を半ば押しつけられた時も、課題を見せてとせびられた時も、お金を貸してほしいとねだられたときも。
河合くんは決してなにも言わなかった。
要領がよくて、賢くて、穏やかな気性の河合くんは決して苛められるような人なんかじゃなくて。
寧ろクラスのそういった"一般的に関わりたくない部類の人たち"から酷く気に入られ好かれている。
だからこそ面倒に振り回されているんだけど、
河合くんはどこぞのマンガのイジメられっ子みたいにヘラヘラ笑わないし、無駄に愛想を振りまくことも、身を案じて他人に媚びたりなんかもしない。
その代わり、「嫌」とも言わない人だった。
不良グループが去った後、一人で放課後の教室の床を掃く河合くんの後ろ姿はとても大人びえて見えて。
背が高くて、色素の薄い髪。
綺麗な肌もあって中性的なその容姿は"カッコいい"というよりは"綺麗"の形容寄り。
後ろから見ていて、そのスラリと長い手足に安っぽい緑のホウキの柄は不似合いだった。
いつもどこか落ち着いていて、何にも動じたりすることはない、彼。
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