第16話
例えば、誰の誕生日でもないのに
とびきり豪華なバースデーケーキを焼いたような。
例えば、悩みも楽しみもないのに
早朝の4時に目が覚めたときのような。
例えば、財布が手元にないのに一日中
一人で雑貨屋さん巡りをしたような。
この気持ちは本末転倒で、
おおよそ意味なんてないものだけど。
空っぽなんかじゃなかった。
「……井上さんなんで泣くの」
「…泣いてない」
まるでフイルムのないカメラで彼を写し続けたような。
「……井上さん、俺のこと好き?」
写真は残らない。
でももう忘れられない。
「……」
微かに頭を上下に揺らすと、
小さく息をついて赤松くんはほほ笑む。
彼もまた、どうしたらいいのか分からない、やるせない表情で。
「……じゃぁ、付き合う?」
今までで一番大げさに言った冗談の語尾は微かに震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます